インドに関税カードは通用しなかった。写真はモディ首相(写真:ロイター/アフロ)
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(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

 衆議院選挙を控えた日本では、急速な円安の進行、乱高下する株価を横目にしながら政局の行く末に注目が集まっている。一方、その間にも世界情勢は大きく動いている。

 例えば、インドは米債の保有を徐々に減らし、確実に“ドル離れ”を進めている。そのアクセルとなった大きな要因の一つが、米国のドナルド・トランプ大統領が一方的に課した50%もの関税である。トランプ大統領は、いわゆる相互関税の枠組みの下で25%の関税をインド製品に課し、さらにロシアとの原油取引を理由に25%の関税を上乗せした。

 その後、2月2日、トランプ大統領はインドのナレンドラ・モディ首相と電話で協議し、相互関税の枠組みの下で課している関税率を25%から18%に引き下げることで合意に達したと発表した。同時に、インドは米国から5000億ドル超相当の米国製品、具体的には原油や石炭などの鉱物性燃料や農産品等を輸入すると語っている。

 この時に、トランプ大統領はインドがロシア産原油の輸入を停止することになるとの見解も示した。そうなれば、ロシアとの取引を理由に課していた25%の関税の上乗せもなくなる見通しだ。このように勝ち誇った体のトランプ大統領だが、実態としてはインドとの取引でも“TACO”(Trump Always Chickens Out)になったと判断される。

 ここにきてトランプ大統領がインドに対して急速に融和姿勢を強めた最大の理由は、インドと欧州連合(EU)の接近にあったと考えられる。インドとEUは1月27日、約20年にもわたる交渉を結実させ、自由貿易協定(FTA)を締結すると発表した。協定が発効すれば、人口と経済規模が世界の2割を超える、巨大な自由貿易圏が誕生する。

 トランプ大統領の経済外交観は、もともとご都合主義的な性格が強い。ドンロー主義とも言われるが、同時に日和見なため、EUとインドの接近を目の当たりにし、楔を打たねばならないという意向が政権の内部から出てきたのだろう。言い換えれば、政権がインドとEUの接近を甘く見積もっていた可能性が高いのではないか。