そもそも矛盾していたインドへの圧力

 米国にとっての目下の最優先事項は、中国を制することにあるとよく指摘される。欧州勢との間で軋轢を生んだグリーンランド領有を巡る争いも、背景には、中国が希土類元素(レアアース)の生産を独占していることへの危機感があるという。レアアースが豊富に埋蔵されているグリーンランドを、トランプ大統領は手中に入れたいようだ。

 対するインドは中国と新興国の双璧を成す存在だが、中国との間で国境紛争を抱えており、関係は良好とは言い難い。そのインドを自陣営に取り込むことは、少なくとも前任のバイデン民主党政権までは米国とEU、日本との間でのコンセンサスだった。トランプ政権はそれを覆し、インドにとにかく圧力を加え続けたのである。

 結果として、インドは保有する米債の売却を急速に進めるとともに、米国と対立する欧州勢と急接近することになった。さすがに中国との関係の改善を進めたわけではないが、少なくとも米国からは、着実に距離を置くようになっている。米国の対インド戦略は、モディ首相の離反を生んだという点で大きな失敗だったといえるのではないか。

 なお、この米国の対インド戦略の転向は、イランとの関係からも読み解くべきことなのかもしれない。米国と敵対するイランとインドが友好関係にあるためだが、トランプ大統領がモディ首相に塩を送ったつもりでも、関税でなびかなかったモディ首相が心を開くかどうかは定かではない。圧力一辺倒のトランプ外交は大きな岐路に差し掛かっているのかもしれない。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。