消費者物価以上に最低賃金を引き上げているエルドアン政権(写真:ロイター/アフロ)
  • 通貨リラが暴落しているトルコで、米ドル建て一人当たり所得が増えている。
  • その理由は、通貨の下落を上回るペースで物価上昇が続いているため。
  • トルコの所得増は過大評価であり、いずれ調整を余儀なくされる。

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 トルコといえば、2018年以来、通貨リラの為替レートの暴落が続いていることで知られる。2023年の対ドルレートの下落率は44.4%と2022年(83.7%)よりは縮小したが、2018年から2023年の間に、リラの対ドルレートは5分の1まで下落してしまった。

 そのトルコで、米ドル建ての一人当たり所得が増えているというパズルがある。

 トルコ統計局によると、同国の2023年における米ドル建ての一人当たり名目GDP(国内総生産)は、前年から23%も増え、1万3110米ドルとなった(図表1)。日本の場合、歴史的な円安で米ドル建ての一人当たり所得の目減りが激しい。トルコは、日本以上の通貨安だが、にもかかわらず、米ドル建ての一人当たり所得が増えている。

【図表1 トルコの米ドル建て一人当たりGDP】

(出所)トルコ統計局より作成

 このパズルを解くべく、トルコの米ドル建て一人当たり名目GDPの変動を①物価要因(GDP価格指数の変化率)、②成長要因(実質GDPの成長率)、③為替要因(リラの対米ドルレートの変化率)で分解すると、2021年以降の一人当たり所得の増加が、主に①が③を上回るかたちで実現していることが確認できる。

 もちろん、2021年以降は②の要因(成長要因)も米ドル建ての一人当たり名目GDPを押し上げているが、とはいえ、それは③の要因(物価要因)に及ばない。また、実質GDP成長率を需要項目別に寄与度分解すると、2023年の輸出はマイナス寄与であるため、通貨安で好調な輸出が景気をけん引したという見解も当たらない(図表2)。

【図表2 トルコの実質GDP(需要項目別寄与度分解)】

(出所)トルコ統計局より作成

 いずれにせよ、トルコでは2021年以降、通貨の下落以上に、物価の上昇が激しくなっており、それが米ドル建ての一人当たり名目GDPを「膨張」させているようだ。そして、2020年までは物価の上昇以上に通貨の下落が激しく、一人当たり所得も減少していたため、2020年前後にトルコ経済の質的な転換があった可能性が窺い知れる。