仮に共和党が政権を奪取した場合は、米国のウクライナ支援は急激に萎むのではないだろうか。写真は予備選に出馬したトランプ前大統領(写真:AP/アフロ)
  • ロシアとの戦争を「総力戦」で臨んでいるウクライナだが、財政赤字が5割拡大するなど経済の疲弊は進んでいる。
  • ウクライナの戦後復興支援に鑑みれば、国際機関や欧米が供与したウクライナ向けローンの大半を放棄しなければならないのではないか。
  • 納めた税金が、ウクライナの戦争や戦時経済体制の運営のために使われる欧米の納税者の忍耐もいつまで持つか。今年の米大統領選がターニングポイントとなって、戦争は停戦に向かうかもしれない。

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 ウクライナの実質GDP(国内総生産)は、2023年4-6月期に前年比19.5%増と6四半期ぶりにプラス成長に復した(図表1)。しかしこの動きは、2022年に実質GDPが約3割も減少したことの反動増に過ぎず、翌2023年7-9月期の実質GDPは前年比9.3%に成長率が低下しており、10-12月期にはさらなる低下が予想される。

 他方で、ウクライナの消費者物価も、2022年10-12月期の前年比26.6%をピークに上昇率が低下に転じ、直近2023年10-12月期は5.1%まで上昇が落ち着いている。ただ、これもいわゆるベース効果に伴うディスインフレに過ぎず、このことをウクライナのマクロ経済が安定を取り戻していることの証左として評価することはできない。

【図表1 ウクライナの実質GDPと消費者物価】

(出所)ウクライナ国家統計局

 そもそもウクライナは、ロシアとの戦争を文字通りの「総力戦」で臨んでいる。ロシアの場合、ウクライナとの戦争で戦時経済体制への移行が進んでいるが、ウクライナはそれ以上に本格的な戦時経済体制へと既に移行している。そうした事実を踏まえたうえで、ウクライナのGDPや消費者物価の動きを冷静に評価する必要がある。

 急速な戦時経済化は、財政赤字の急増にも表れている。

 次ページの図表2にあるように、財務省の発表によれば、同国の2023年の財政赤字は1兆3300億フリヴニャ(約350億米ドル)となり、前年の8472億フリヴニャから5割増加した模様だ。歳入は2兆6700億フリヴニャで、うち税収は1兆6600億フリヴニャ、一方で歳出は4兆フリヴニャ超だった。