(文:駒林歩美)
美術館やアートプロジェクトへの公的資金による手厚い助成は、ドイツを世界的な現代アートの中心地に成長させた。しかしパレスチナ危機の再燃によって、政府が「反ユダヤ主義」と見なす作品やアーティストは活動の場を奪われつつある。反発するカルチャーワーカーたちはドイツを離れたり、あるいは同国を代表する芸術祭「ドクメンタ」や「ベルリン国際映画祭」のボイコットを呼びかけたりするなど、表現の自由をめぐる闘争が激しさを増している。
パレスチナ問題が芸術界にも波及
「ドイツは今後、文化を生み出す場としての重要さを失っていくだろう」
政策提言もするベルリンのカルチャー組織で、スポークスパーソンを最近まで務めていたアーティストのソフィア(仮名)はそう語った。昨年10月以降、パレスチナとレバノンで市民を虐殺するイスラエルと、同国を支援するドイツ政府を声高に批判し、彼女はドイツの右派メディアや組織から攻撃を受けた。そのために活動資金を得られなくなり、所属組織脱退を強いられたことからドイツを離れ、パリに引っ越すと言う。
「国際的なアーティストは、検閲されるような場には行きたがらないはずだ。スーパースターたちは、行く場所を自由に選べる。ドイツは避けられるようになるだろう」
600万人のユダヤ人をホロコーストによって殺害した過去をもつドイツは、それを理由に昨年10月以降、イスラエルを支援し、米国に次いで多くの武器をイスラエル政府に供給してきた。国際刑事裁判所(ICC)によるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と、ヨアヴ・ガラント前国防相に対する逮捕状発行に際しても、ローマ規程に署名しているドイツはその逮捕を義務付けられているにもかかわらず、「ドイツで逮捕するのは想像し難い」と政府広報官が記者会見で明らかにしている。
ドイツ国内ではパレスチナに連帯を示す人々が「反ユダヤ主義者」とみなされ、公の会議への招待、資金や会場の提供などを相次いで拒否されている。ベルリンは世界的な現代アートの拠点として、様々な国から文化関係者が集まってきていたが、昨年10月以降、パレスチナに連帯を示すアーティストは活動の場を奪われるということが相次いできた。
イスラエル批判がタブーとされる現在のドイツ
南西部のザールラント州博物館で2024年に予定されていた南アフリカ出身の著名なユダヤ人アーティスト、キャンディス・ブライツのビデオインスタレーションの公開中止が昨年11月に発表された。その理由は、彼女がソーシャルメディア上で、ハマスによるイスラエルでの殺戮を非難すると同時に、「数十年にわたる抑圧からのパレスチナ人の解放を支持すべきだ」とソーシャルメディアに書き込んだためだ。
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