しかし、彼女は登壇を断った。「私は美術館に否定されたと感じた。彼らは、自分たちが展示しているアーティストを支持していないことを証明しようと懸命だった」と独紙「フランクフルター・ルンドシャウ」に述べている。シンポジウムに当初登壇を了承したアーティストらも、次々にキャンセルする騒ぎになった。

「ドイツよ、これを聞くのが怖いのか?」

 そんななかで始まった回顧展のオープニングスピーチで、ゴールディンはイスラエルとドイツを厳しく批判した。特に、自国内のパレスチナ人とパレスチナに連帯を示す人々を反ユダヤ主義者と攻撃し、アーティストをキャンセルするドイツ政府を非難したのだ。

「ICCはジェノサイドについて語っている。国連もジェノサイドについて語っている。ローマ法王さえジェノサイドについて語っている。それなのに、私たちはこれをジェノサイドとして語ることはできない。ドイツよ、これを聞くのが怖いのか?」と述べた。

 また、彼女の計らいもあって会場にいた、親パレスチナアクティビストらがスピーチ直後に「フリー・パレスチナ!」と声をあげ、その後の館長の反論スピーチがアクティビストの声でかき消される事態になった。パレスチナ国旗やバナーが会場内で振られ、ドイツでは大きな「スキャンダル」となった。連邦文化大臣のクラウディア・ロートやベルリン市の文化担当大臣ジョー・チアロは、ゴールディンのスピーチを「耐えられないほど一方的な政治的見解」であると批判した。

 ソフィアは、「現代で最も重要なユダヤ人アーティストの一人である彼女を、ドイツはパレスチナに対する意見だけを理由に酷く扱っている。文化・学術分野では、今後ドイツに対するボイコットが広がっていくだろう」と指摘する。

ベルリン国際映画祭のボイコットを呼びかけ

 すでに、ドイツの文化機関をボイコットしようという、カルチャーワーカーによる「ストライク・ジャーマニー」というキャンペーンがある。ドイツで開催される国際的な現代アート展「ドクメンタ」を1997年に統括したフランスのカトリーヌ・デイヴィッドや、英国の現代アートで最も重要なターナー賞の受賞者など、著名アーティストもこの動きに賛同し、署名している。

 同キャンペーンが目下ボイコットの対象にしようと訴えているのは、2025年2月に開催される「ベルリン国際映画祭」だ。元々政治的なメッセージ性の強い作品が多く上映されることで知られてきた。

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