能登半島地震では道路が大きく陥没するケースが多発した。写真は石川県能登町近郊(写真:AP/アフロ)

2024年も残すところあとわずかになりました。今年、注目されたニュースや出来事についてJBpressでよく読まれた記事をもう一度お届けします。今回は1月1日に発生した能登半島地震に関する記事です。(初出:2024年1月12日)※内容は掲載当時のものです。

  • 能登半島地震では道路が陥没したり、法面(のりめん)が崩壊したりするケースが多発し、救助・支援・復旧・復興に多大な影響が出ている。深刻なのが珠洲市や輪島市といった能登半島北部だ。
  • 土木計画が専門の神戸大・小池教授は「大雪の影響で道路復旧に時間がかかるのは必須。おそらく春まで復旧できない道路も多数ある。一斉疎開の可能性も検討すべき」と危惧する。
  • また小池氏は被害が出た道路は市町村道が中心で、道路の老朽化が著しい状況だったという。南海トラフのように広範囲に被害が及ぶ地震が起きた場合、全国で「孤立住宅」が多発するリスクがあると警鐘を鳴らす。

​(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

復旧工事は春まで進まない可能性も

──能登半島地震では石川県で多くの道路が陥没していて、救助や支援物資の輸送に影響がでています。現在の被害状況をどのように分析していますか。

小池淳司・神戸大学大学院工学研究科教授(以下、敬称略):まず、高速道路のような高規格な道路は復旧が容易で、老朽化した県道・市町村道は修復が困難だということを覚えておいてください。

 その上で今回の地震の被害を見ますと、能登半島北部の輪島市の手前までは高速道路(能越自動車道)がありますが、その先の輪島市や珠洲市を走る道路は市町道が中心です。これらのエリアの道路で陥没、土砂崩れによる法面崩壊の被害が深刻で、壊滅的な状態です。 

(出所:国土交通省のHP)
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 輪島市門前町や珠洲市には住宅が多数あり、その救助・支援・復旧・復興に道路は輸送インフラとして欠かせません。これらの道路は復旧まで時間がかかることに加え、現在は大雪が降っています。おそらくですが、春まで復旧工事は進まない可能性があります。

小池 淳司(こいけ・あつし)神戸大学大学院工学研究科 教授 1992年岐阜大学工学部土木工学科卒業。1994年岐阜大学大学院工学研究科博士前期課程修了(土木工学専攻)。岐阜大学助手。1998年長岡技術科学大学助手。1999年博士(工学)(岐阜大学)。2000年鳥取大学助教授。2007年鳥取大学准教授。2011年神戸大学大学院工学研究科教授

 復旧工事が進まない以上、これらの地域に住む住民は自宅に居続けることは事実上不可能に近いと思います。2004年の中越地震の山古志村のケースのように、全村避難も選択肢の一つに入ってくるでしょう。

 一方、能登半島の先端部は平成以降、市町村合併を繰り返していて、リーダーシップが取りにくい状況にあるようです。事実、被災地を訪問した知人からは「行政が機能していない」という報告もあるようです。加えて、能登半島地震は複数の市町で道路が陥没しており、被害エリアが広すぎます。山古志村のケースのように、村長の鶴の一声で避難が実現するかどうか、今回ばかりは分からないと思います。

困難な生活を余儀なくされている。石川県輪島市(写真:AP/アフロ)

 なぜこのようなことになってしまったのか。もちろん、能登半島地震は未曽有の大災害でした。ただ、それを差し引いても、平成以降の日本の土木行政の当然の帰結であることは疑いようもありません。新規道路整備だけでなく、既存道路の補修・補強を目的とした土木工事を「効率的ではない」と決めつけ、いわゆる「道路の整備効果におけるコスパ」を測る指標である「費用便益比(以下、B/C)」だけを頼りにしてきました。インフラ投資を怠ってきたツケが回ってきているのです。

 本来であれば、住民が住むエリアの道路を耐震仕様の高規格のものにするなど、打てる手はあったのです。ただ、「コスパが悪い」の大合唱に負けてしまった。道路への投資はB/Cだけでは測ることができないのに、主要先進国で日本だけが新規投資でB/Cを絶対視しているのです。