不安が募る年明けとなった(写真:ロイター/アフロ)
  • 能登半島地震、日航機と海保機の衝突事故…。年明けからつらいニュースが相次ぎ、不安を感じる読者も多いのではないだろうか。
  • 落ち込む気持ちを克服しようと落語を探ると、政情不安が広がっていた幕末に誕生した「蔵前駕籠(かご)」という話に行き着いた。
  • 江戸っ子には、少しでも視点を明るい未来に向けるために、目前の不安をみんなで笑ってシェアして気持ちを軽くしようという、いわば「割り勘精神」がある。その「不安克服法」は現代にも通じる。

(立川 談慶:落語家、著述家、筋トレ愛好家)

 とてつもなく不安になりがちな年明けとなりました。

 元日の午後4時過ぎ。落語会を定期的に開いていただいているご近所のお寺さん3軒を回って、さいたま市の自宅に戻ってきた時でした。

 大きな揺れが迫っていることを知らせるギュインギュイン音が携帯電話から鳴り、不安感が増幅したところにしばらくしてゆったりとした横揺れが始まりました。恐怖に駆られて慌ててテレビのチャンネルを合わせると「石川県震度7」という速報が流れてきました。

 一夜明け、津波警報が注意報に変わり、差しあたって津波の脅威が薄らぐと、今度は明らかになってきた被害状況に目も当てられなくなります。まだ生き埋めになっている人も多数いるという情報が更に重くのしかかります。

海上保安庁の航空機と衝突し炎上する日本航空の旅客機(写真:ロイター/アフロ)

 そんな中、毎年1月2日は落語立川流新年会です。師匠談志の誕生日に合わせて開催され、今年も孫弟子各位による趣向が凝らされた演出を堪能して帰宅すると、今度は羽田空港で日航機の炎上する動画がSNSで配信されてきました。

「新年早々、天災と人災とが連日発生してしまうとは」

 降りかかる災禍を前にして、ひたすら無力感を覚える日本人も多いのではないでしょうか。

立川談慶(たてかわ・だんけい) 落語家。立川流真打ち。
1965年、長野県上田市生まれ。慶應義塾大学経済学部でマルクス経済学を専攻。卒業後、株式会社ワコールで3年間の勤務を経て、1991年に立川談志18番目の弟子として入門。前座名は「立川ワコール」。二つ目昇進を機に2000年、「立川談慶」を命名。2005年、真打ちに昇進。慶應義塾大学卒で初めての真打ちとなる。著書に『教養としての落語』(サンマーク出版)、『なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか』(日本実業出版社)、『いつも同じお題なのに、なぜ落語家の話は面白いのか』(大和書房)、『大事なことはすべて立川談志に教わった』(ベストセラーズ)、『「めんどうくさい人」の接し方、かわし方』(PHP文庫)、小説家デビュー作となった『花は咲けども噺せども 神様がくれた高座』(PHP文芸文庫)、『落語で資本論 世知辛い資本主義社会のいなし方』など多数の“本書く派”落語家にして、ベンチプレスで100㎏を挙上する怪力。

 まして私はそんな中でもひときわ立場の弱い落語家であります。落ち込んだ気持ちをなんとか持ち直そうと、救いを求めるように落語を探ってみました。たどり着いた落語が「蔵前駕籠(かご)」という演目です。

 設定は、幕末の江戸。まさに、政情不安の背景が活写されています。