ダイハツはトヨタ主導で再生を目指す(写真:REX/アフロ)
  • ダイハツ工業が親会社トヨタ自動車から送り込まれる社長の下で再出発を切ることになった。
  • そもそも、トヨタグループ全体を揺るがすダイハツの不正は、「忖度の連鎖」が遠因となったとみる向きもある。
  • あらゆる組織にはびこる忖度体質は、落語「目黒のさんま」にもみることができる。それはまるで、日本型組織のシステムエラーだ。

(立川 談慶:落語家、著述家、筋トレ愛好家)

 トヨタ自動車の子会社であるダイハツ工業で露見した、自動車の認証試験における不正問題が大荒れです。ダイハツがこの先どうなるのか、まだ不透明なところも多々ありますが、2月13日には、奥平総一郎社長、松林淳会長が辞任し、井上雅宏氏が3月1日付で新社長に就任することが発表になりました。井上氏はトヨタ出身。トヨタで中南米本部長などを歴任した人物であります。副社長には、トヨタの高級車「レクサス」を生産するトヨタ九州の桑田正規副社長が就任するとのこと。親会社のトヨタ主導で再建に取り組む方針のようです。

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 記者会見で井上氏は、「ダイハツ再生に全力を尽くしていきたい」などと語ったとのこと。一刻も早い信頼回復に努めてもらいたいものです。

 昨年12月に第三者委員会が公表した調査の結果によると、確認された限りではダイハツは1989年から不正に手を染めていたようです。生産を終了した車種を含め、不正は64車種、ダイハツのみならず、車両を供給してきたトヨタやマツダ、スバルにも及びます。

立川談慶(たてかわ・だんけい) 落語家。立川流真打ち。
1965年、長野県上田市生まれ。慶應義塾大学経済学部でマルクス経済学を専攻。卒業後、株式会社ワコールで3年間の勤務を経て、1991年に立川談志18番目の弟子として入門。前座名は「立川ワコール」。二つ目昇進を機に2000年、「立川談慶」を命名。2005年、真打ちに昇進。慶應義塾大学卒で初めての真打ちとなる。著書に『教養としての落語』(サンマーク出版)、『なぜ与太郎は頭のいい人よりうまくいくのか』(日本実業出版社)、『いつも同じお題なのに、なぜ落語家の話は面白いのか』(大和書房)、『大事なことはすべて立川談志に教わった』(ベストセラーズ)、『「めんどうくさい人」の接し方、かわし方』(PHP文庫)、小説家デビュー作となった『花は咲けども噺せども 神様がくれた高座』(PHP文芸文庫)、『落語で資本論 世知辛い資本主義社会のいなし方』など多数の“本書く派”落語家にして、ベンチプレスで100㎏を挙上する怪力。

 そもそも、日本を代表する企業集団であるトヨタグループ全体を揺るがすことになったダイハツ不正はなぜ起きたのでしょうか。2月9日に国土交通省に提出した再発防止策では、風土改革、経営改革、モノづくり・コトづくり改革という「三つの誓い」を立てています。注目すべきは、「風土改革」が3つの中で最初に挙げられている点ではないでしょうか。つまり、これが最も深刻な不正の温床であった、と示唆しているように見えます。実際、第三者委員会の調査結果には、以下のような組織のムードが描かれています。

「管理職は表向きは『何でも相談してくれ』と言うものの、実際に相談すると、『で?』と言われるだけで相談する意味がなく、問題点を報告しても『なんで失敗したの』『どうするんだ』『間に合うのか』と詰問するだけで、親身になって建設的な意見を出してくれない」

 まるで「パワハラ」です。親会社トヨタ向けを含め、グループ各社への車両の供給を背景に、ダイハツには大きなプレッシャーがかかっていたとされています。そのような状況で、ダイハツ経営陣はトヨタの顔色を窺い、ダイハツ社内では管理職が経営陣の顔色を窺い、現場はそんな管理職に何を言ってもムダだと諦めて自ら不正に手を染めてしまった…。問題があっても、「トヨタに迷惑をかけるわけにはいかない」という忖度の連鎖が、不正の温床になってしまったということではないでしょうか。