- ダイハツ工業の新社長に、親会社トヨタ自動車出身の井上雅宏氏が就任する。
- トヨタ出身者で新たな経営体制の軸を固め、トヨタの豊田章男会長が表明した「主権を現場に戻す」改革を進める。
- だが、現場重視の改革を進めるだけではダイハツの「再生」はおぼつかない。社内の利害対立や様々な外的要因を調整する優秀な「企画屋」の存在が見えてこないからだ。
(井上 久男:ジャーナリスト)
トヨタ自動車と子会社のダイハツ工業は2月13日、ダイハツの新社長にトヨタ中南米本部長を務める井上雅宏氏(60)が就任すると発表した。人事は3月1日付で、ダイハツの奥平総一郎社長、松林淳会長は辞任する。
2023年12月20日にダイハツは車両開発における認証試験で大規模な不正を行っていたことを発表し、国土交通省から是正命令を受けた。ダイハツは2月9日、不正の一因となった短期開発を見直すことなどを盛り込んだ再発防止策を国土交通省に提出。今回の人事は、経営トップを一新して新体制の下でダイハツの再生に取り組む狙いがある。
13日午後、トヨタの佐藤恒治社長と、ダイハツの新社長に就く井上氏が記者会見した。その中で佐藤氏は井上氏を社長に選んだ理由の一つとして「コミュニケーションを大事にしてきたリーダーである」ことを掲げ、井上氏自身も「ステークホルダーとのコミュニケーション力を買われたのではないか」と語った。
ダイハツの不正を調べた第三者委員会は、上司にモノが言いづらい組織風土も不正を引き起こした一因と見なしており、組織の風通しを良くすることが求められていた。そのため、コミュニケーション能力が高いとされる井上氏に白羽の矢が立ったようだ。
井上氏は1987年に入社以来、キャリアの半分近くが海外で、中でもブラジルなど中南米での経験が豊富だ。現職の中南米本部長としても改革の実績を挙げたとされる。井上氏を知る複数のトヨタOBからも「トヨタの中南米事業はパートナーも多く、そうした相手とのコミュニケーションが重要になるが、井上氏はそれをうまく調整できるタイプ」とか、「人を蹴落とすタイプでもなく、考え方も偏っていない、いい人」といった声が聞こえてくる。