
トランプ関税による米中対立の激化により原油市場で悲観的な見通しが相次いでいる。米ゴールドマン・サックスは2026年末に55ドルまで下落するとのレポートを公表。OPECプラスの価格コントロールも、もはや限界といった状況だ。
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=60ドルから65ドルの間で推移している。米中関税戦争の激化で市場のセンチメントの悪化が続いているが、価格の下値は先週に比べて5ドルほど上昇している。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
今週は原油の需要見通しに関する発表が相次いだ。
石油輸出国機構(OPEC)は4月14日に公表した月報で、世界の原油需要の増加を今年は前年比日量130万バレル、来年は128万バレルにそれぞれ引き下げた。3月に示した見通しからいずれも15万バレルの減少だ。トランプ米政権の関税が主な要因だとしている。昨年12月以来の引き下げだが、依然として強気の予測を維持している。
国際エネルギー機関(IEA)は15日「世界の今年の原油需要は前年比日量73万バレル増となる」との予測を示した。3月の予測(日量103万バレル)を3割も引き下げた形だ。73万バレルの増加は、新型コロナのパンデミックを除けば、2019年(日量54万バレル増)以来の低水準となる。IEAは「需要減の約半分は本格的な貿易戦争に突入した米国と中国が占める」としている。
米ゴールドマン・サックスはもっと悲観的だ。14日に発表したレポートで、世界の今年の原油需要の増加は日量30万バレルにとどまるとの見方を示した。特に石油化学原料向けの需要が大きく落ち込むとしている。これにより、今年の世界の原油市場は日量80万バレルの供給過剰に陥り、来年にその規模が同140万バレルにまで拡大することから、原油価格は来年末に1バレル=55ドルに落ち込むと見込んでいる。
供給サイドに目を向けると、OPECプラス(OPECとロシアなどの大産油国で構成)の3月の原油生産量は前月比約4万バレル減の日量4102万バレルだった。ナイジェリアとイランが減産した一方、カザフスタンは日量約4万バレル増産した。