
原油価格がまたも、トランプ大統領の発言によって上昇した。ベネズエラやイランの原油を購入している中国をターゲットにした制裁強化の発表を受けて、原油価格は3週間ぶりに一時70ドルを超えた。だが、この上昇は長続きせず、原油価格の下落基調は変わらない。そのワケは?
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り、1バレル=68ドルから70ドルの間で推移している。トランプ米政権の制裁強化の発表を受けて、原油価格は3週間ぶりに一時、70ドルを超えた。
まず、いつものように世界の原油市場の需給を巡る動きを確認しておきたい。
ロイターは3月24日、「石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの大産油国で構成するOPECプラスは5月も4月に続いて増産を実施する公算が大きい」と報じた。
OPECプラスは20日、「合意水準を超えて生産された超過分を相殺するため、7カ国が追加減産を行う」と発表していた。月次の減産幅は日量18万9000~43万5000バレルで、来年6月まで継続される。イラクが減産の大部分を担う。4月から予定される増産幅(同13万8000バレル)を上回る規模だ。
この決定を踏まえ、OPECプラスは「2022年以降進めてきた有志国による協調減産の巻き戻しを2カ月連続で実施しても、原油価格が下落することはない」と判断しているようだ。OPECプラスの次回の閣僚会合は4月5日に開かれる。
一方、「世界の原油供給が大幅に増加する」との観測は根強い。
米金融サービス企業レイモンド・ジェームズ(RJ)は21日、「多数のプロジェクトが年内に稼働し始めることで増加する原油生産量は日量約290万バレルと昨年(約80万バレル)の3倍以上となり、過去10年で最大となる。今年末の世界の原油市場は供給が需要を日量28万バレル超過する」との予測を発表した。
RJが指摘するプロジェクトは、カザフスタンのテンギス油田やブラジル沖のバカリュウ油田、サウジアラビアのベリ油田やマルジャン油田などの拡張工事だ。
原油価格の下落でこれらのプロジェクトに遅延が生ずる可能性はあるが、OPECプラスにとって頭の痛い問題だ。
スイスのローザンヌで25日に開催されたイベントに出席した国際商品取引企業も「今年の原油価格は軟調に推移する可能性がある」とみている。OPECプラスが増産に転じる一方、需要サイドが弱いというのがその理由だ。
市場ではウクライナ紛争の停戦協議の行方に関心が集まっている。