米国への入国審査が厳しくなっている。写真はアトランタ空港(写真:ロイター/アフロ)

ドイツ人や英国人などの外国人渡航者が米国入国の際に拘束されるという事例が相次いで報告されている。観光目的の旅行者や、永住権保有者まで含まれる。中には刑務所に長期間拘留されたり、手錠をはめられたり、裸で冷水のシャワーを浴びせられたりしたという報告さえある。トランプ政権の移民政策との関連も指摘されており、もはや観光目的で米国を訪れることさえ安全とはいえないといった声も出始めている。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

「米国に来る観光客は、もう誰も安全ではない」「ここには来ないで!」

 これは今月初め、これから米国への観光を計画している人たちに向けて発せられた、あるドイツ人と米国人のカップルによる警告である。複数の報道によれば20代半ばのドイツ人男性は1月下旬、婚約者である米国人女性の暮らすラスベガスを観光ビザで訪れた。

 独外務省のサイトによると、ドイツ国籍の人はビザ免除プログラムにより、渡航者に義務付けられる電子認証(ESTA)を所有していれば、観光などの目的で90日以下の滞在が可能である。男性はESTAを有していたという。

 女性の飼い犬が病気になり、メキシコで治療を受ける方が早く処置されるため、2人は2月中旬に出国した。

 AP通信などの取材に応えた女性によれば、メキシコから米国へ再入国する際、英語が堪能でない男性は国境検問所で「どこに住んでいるのか?」と聞かれた。女性の証言では、国境警備員の口調は非常に攻撃的なものだったという。今後の滞在先を尋ねられているのだと誤解した男性は母国のドイツではなく、誤って女性の暮らすネバダ州と答えてしまった。

 すると、国境警備員は「捕まえたぞ。ラスベガスに住んでいるんだな。そんなことはできないぞ」と発言。女性がすぐに誤りを正したにもかかわらず、ドイツ人男性は尋問のため連れ去られた。自身が同行するか、通訳をつけてほしいと懇願した女性は黙れと命じられ、車から出されて手錠でベンチに繋がれたという。

 AP通信によると男性は身体検査を受けた上に所持品を取り上げられ、2日間の留置所生活ののち、拘置所に移送された。男性は米国に居住したことも、犯罪歴もないとされている。

 最終的には2800ドル近いドイツへの航空券を購入せざるを得ず、約2週間後の3月初旬、ドイツに帰国した。男性はこの体験がトラウマになって悪夢にうなされていると言い、婚約者の米国人女性は米国政府を告訴する予定だという。

 このケースは、単発の不運な事例ではないようだ。欧米メディアは最近、ドイツ人や英国人旅行者や、就労ビザを申請しようとしただけのカナダ人、また米国での永住者に付与される「グリーンカード」と呼ばれる身分証明書の保持者までもが相次ぎ拘束された、おぞましい事件の数々を報じている。

 こうした報道では、理由も説明されないままに何週間も拘留されたり、勾留中に手錠や足枷をはめられたり、中には裸で冷水を浴びせられるなどの非人道的な扱いを受けたりしているという衝撃的な内容が散見される。

 英国やドイツなどの外務省は最近になり、米国への渡航を予定する人たちに向けた情報を更新した。最悪の場合、米当局により逮捕・拘留される場合もあると警告し、入国規制を事前に入念に確認するよう呼びかけている*1

*1英政府独外務省