ヨハン・セバスチャン・バッハの銅像(Wolfgang ClaussenによるPixabayからの画像)

 長年、というか創刊以来連載を続けさせてもらっているJBpressのランキングに珍しくクラシックの記事が目に留まりました。

一時は世間から忘れ去られたバッハ、1世紀後に再評価されることになった2つの音楽的特徴」というタイトルで、読んでみたところ、恰好の初歩リスナーへの誘いになっていると思いました。

 と同時に、専門家の観点から、少し思ったこともありました。

 最近の学生の傾向として、例えば東京藝術大学や音楽大学のなどで学ぶ専門家の卵がこれを目にして、内容を鵜呑みにしないか懸念してしまうんですね。

 新型コロナウイルス感染症がピークを迎えていた2020年、東京藝大はほとんどのレッスンが遠隔となり、「オーケストラ」の合奏もなくなって「リポート提出」という時期がありました。

 演奏専攻では、先生の方が日頃から「リポート」など出題し慣れていません。

 あえてここには引きませんが、相当な珍問奇問も出題され、「これ、どうしたらいいんでしょう?」と演奏専攻の学生から、いろいろな「課題」を持ち込まれ(て苦笑し)たことがありました。

 苛烈な実技試験のため、学科とは「中学2年でサヨナラした」という学生も少なくない中で、ネットに書いてあることが何でも正しいと思っている学生が相当数いるようです。

 というより、兎にも角にも文字が並んでいればリポート提出になるので、そういう傾向に拍車がかかっているのかもしれません。

 相当に凄まじい内容のものを捏造してくる学生もあった。

 現在、音楽に関して、林光さんや間宮芳生さんなど本当に作曲し演奏する人が書く原稿が払底し、かなり凄惨なことになっていますので、良心的な職業人の観点で、バッハについて少し補おうと思います。

 誤解のないように申し上げますが、前掲記事に間違ったことが書かれていると指摘するつもりはありません。

 ただ、クラシックの手前で立ちすくんでいるリスナーを誘うよう、初心者向けに書かれている(あるいは愛好家の方が執筆している?)ために、一般のメディアより目や耳の肥えた知的水準の高い方が読者に大勢いるJBpressでは、専門家の目線からどうしても付け足しておきたいのです。