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指揮を学ぶと良いことがいっぱい

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 11月21日、東京都調布市のグリーンホールで、ベートーヴェンの交響曲第九番「合唱」の演奏と、これを教材とする「子供のための指揮教室」を行います。

 ちなみに来年(の話をすると「鬼が笑う」などという表現も最近の学生には通じなくなりましたが)、1月25日日曜日には東京都渋谷区、渋谷の駅ビル「スクランブルスクエア」15階の「渋谷QWS」で東京大学「大人のための指揮教室」も開催します。

 東京大学の社会貢献事業ですので入場は無料。ただし先着順ですので、これからスタッフが作って出すであろう告知をご覧いただければと思います。

 就活中の学生から、管理職を目指すヤングアダルト、実際に部下を率いるビジネス層まで「指揮」という職掌のプロフェッショナルの部分から、たくさんのヒントを得てもらうことができますので、来年の渋谷、どうぞお申込みください。

 今回の「調布」について少し内幕をお話しましょう。

 調布の第九、私は途中から声をかけられたのですが、当初は「プロジェクション・マッピング演出」うんぬんと企画にありました。

 私はノーギャラで乗るのですが、どこからそんな機材費のかかるプランを賄う予算があるのかと財務を問いただしたところ、アマチュアの思い付きで資金の裏付けがないことが分かり、「これでは乗れない」と一度お断りしました。

 その結果、主催者側がきれいに整理してくださったので、今回は本当にお金をかけず、質実剛健で意味のある内容になりました。

 例えば、わけの分からない高額なプロジェクション・マッピングはやめ、私のラボでドクターを取ったメディア・アーティスト=科学者の李 珍咏氏が聴覚障碍者のための音声・音楽可視化システムを組み、それをグリーンホールにある普通のプロジェクタで投射します。

 文字筆記の書き起こしは研究室の大型プロジェクターを供出することにしました(東京大学作曲指揮研究室共催のチャリティ事業ですので、こうした配慮で、ご厚志は少しでも多く、正しく障碍者のための寄付金に生かすよう徹底してもらいました)。

 今回、私が企画構成をお引き受けして以降のプログラム全組み換えで、前半ではピアノの川村文雄さんにお話と演奏をお願いしました。

 川村さんはマリア・カナルスコンクール第3位など欧州で華麗なキャリアを築いたのち、若くして桐朋学園大学で後進の指導に当たられるようになった、世界レベルで第一線の素晴らしい演奏家です。

 そんな川村さんが耳の不調に気付いたのは41歳、2019年7月8日のことだったそうです。詳細はご本人のブログに譲るとして、不惑を過ぎた川村さんは、突然「難聴とともに生きる音楽家」という別の道にシフトチェンジを余儀なくされてしまいました。

 今回は現実に難聴と共に音楽を生きる芸術家に、「調律したピアノとともに何分の時間を差し上げますから、好きに使ってもらって構いません・・・と」お預けしました。

「やらせ」的な演出はゼロ、本物に接する場だけを準備するようにしました。作り物の演出は一切ありません。

 こんな具合で、かつて私が責任を持っていた(それ以前は育てていただいた)テレビ番組「題名のない音楽会」(テレビ朝日系列)では、黛敏郎さんが「本物の音楽をそのまま届ける」ことを生涯の鉄則として貫かれました。

 私が「題名」の音楽監督を引き継いだのは、黛さんが急逝されてから足掛け3年間だけでしたが、そのプロセスはテレビの演出連中との戦いに終始したといって過言ではありません。

 結局、業界では予算の上流にある者が強く、私はテレビを去って慶應義塾の講師に転出、4か月後今度は東大の話が来て、いまの研究室を構えて27年になります。

 音楽の実技は東京藝術大学などでも教え、かつて小学生だった子供たちがいまや内外でコンクールを制しベルリンフィル、ミュンヘンフィル、NHK交響楽団(N響)など第一線の楽団でも弾くようになっています。

 今回はそういう若いメンバーの小さい編成のオーケストラで「第九」の教室と「合唱」部分の通奏を準備しています。