Tatyana KazakovaによるPixabayからの画像
来年の年明けから、久しぶりに「指揮教室」を再開します。
場所は東京・渋谷の駅ビルであるスクランブルスクエアの15階に展開する渋谷QWS。
「経営者・プロジェクトマネージャ必修 東京大学の社会還元アカデミア『大人のための指揮教室』」です。
社会価値還元行事ですので入場は基本無料、指揮実習を希望される方だけ、セレクション受験と合格した方には実費がありますが、それ以外の方には基本お金はかかりません。
ただし募集定員がありますので満席になり次第締切りです。半期に一度程度の頻度で開催の考えです。
まだ企画が決まった段階で日程も決まっていませんが、「指揮教室」は公開と同時に満席になるので、早めに告知しておきます。
また、「調布の第九」(11月21日本番、調布市グリーンホール)は「小中学生のための一分間指揮者コーナー」を準備しました。
こちらは原価がかかっていますから、参加費500円。ワンコインで選考会に応募でき、外れても、ステージ上で第九の演奏を「超臨場感」状態で聴くことができます。こちらの話題は別の稿に記す予定です。
本題に入ります。
あらゆる組織の上司や経営者は、下僚やスタッフに対して「指揮者」の意識で接するべきなんですね。
2000年に株式会社東大総研の設立に参加して以降、コンサルテーションの現場でも四半世紀一貫して、このスタンスで一貫してきた、私たちの大切な原則です。
「指揮者の意識」とは何か?
今回の「調布の第九」では、私自身がアマチュアの合唱団を指導しています。「合唱指揮者」は置いていません。
(ちなみにいまだ、とりわけ男声は少ないため、団員はまだこちらで鋭意募集中です。私が東京藝術大学などで教えてきた本業にご興味の方は、ぜひお問い合わせください。一緒に歌いましょう!)
なぜ私自身で指導するか?
理由は簡単です。20世紀後半から、日本国内でパターン化した「年末第九ビジネス」で手垢が付きまくった和製合唱には、2020年代に歌う生命がほとんど宿っていないことが懸念されるからです。
ベートーヴェンが作曲した元の詩、フリードリヒ・シラーの手になる「歓喜に寄せて(An die Freude)」は、社会的に話題になった「千の風になって」などよりもはるかに、今日の超高齢化した日本社会に、大切な問題を突き付けています。
そして、そうした作品の真意を知る人は、すでに多くが私よりはるかに若い世代になっている商業指揮者諸氏にも、非常に少ない。
「ドイツ語の正しい発音」なんて指導は、私はしません。
もちろん指揮台ではドイツ語で喋り、ドイツ語で歌いますが、ドイツ語でドイツ語の詩の中身が通じるよう指南しています。
ほとんど落語みたいなトーンでやっているのは、物理学の伝統です。
朝永振一郎先生はハイゼンベルクの前でドイツ語上方落語をやって、大笑いを取ったそうで、その学統ですね。
例えば、よく知られた「おぉ。友よ、こんな音ではない」というバリトンの独唱。
私の指導はどうしてこれ「バリトン」なの?といった問いから始めます。ドイツのバイロイト祝祭劇場でドイツ人歌手相手でも同じような問いから始めました。
誰もそんなの、母国語人のプロ・ソリスト諸氏だって、およそ考えたことがありません。
そこから腑分けしていくと、欧州で日本人がヴァーグナーやベートーヴェンを指導しても素直に聞いてくれるようになります。
ここでベートーヴェンが「おー友よ。こんな音じゃなーい」と展開しているのは「いかりや長介の芸風」ですね。
ザ・ドリフターズのコントとして教えます。で、これは大真面目、本当の話です。
つまり、「ダメだダメダメダメダメ、加藤も仲本もブーもダメ~!」と乱入してくる現場監督ですが、品位をもって言うならデウス・エクス・マキナのイタリア古典笑劇コンメーティア・デッラルテのキャラクターとして「テノール」でも「バス」でもなく「キャラクターとしてのバリトン」なんですね。
プロ向けには「パパゲーノで歌いましょう」などと正しく原典に即してご教授します。
合唱については、今回はチャリティの合唱ですから「お上手」である必要はない。
キリスト教の教会で、友達の信徒さんのお葬式で心を込めて歌う讃美歌を考えましょう、なんて誘導しながら、音程もリズムも発音もフレーズも正確にお教えします。
嬉しいことにこういう合唱団にはいろいろな参加者があり、現在の最年少は小学1年、6歳女子「さらちゃん」(仮名)。
最高齢はどなたか確認していませんが、80代と思しい薬局のおばあさんはありがたいことに「新しい生き甲斐ができた」とおっしゃって、通ってくださっているとのこと。冥利に尽きます。
そしてこの年齢差約80歳の合唱団を、私自身でご接心して、本番までご一緒します。
なぜ、そんなことをするのか・・・?
ここに「指揮者の意識」の本質があります。
経営者やプロジェクト・マネジャー、上司全般が必ずわきまえなければならない「意識の本質」は、この「さらちゃん」と「薬局のおばあさん」に一番よく現れているからです。