8月7日に発表されたGPT-5(写真:ロイター/アフロ)
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 2025年8月7日、米国のOpenAIが生成AIの最新版「GPT-5を正式リリースしました。

 この新しいシステムに関しては、賛否両論様々な見解がネット上に見受けられます。しかし、それらのほとんどすべてが見落としている点がいくつかあります。

 何よりも、その第1は、2年前の2023年3月14日に公開された「GPT-4」 や2022年11月30日に公開された「ChatGPT」、それを支える「GPT-3.5 Turbo」などを開発した、理想主義的な非営利団体「OpenAI」とは似ても似つかぬ開発主体が、全く別の営利目的をもって推進、発売したシステムであるという点です。

 かつてのOpenAIは、旧ソ連出身の俊才AI技術者イリア・サスケバー氏を共同創業者兼チーフサイエンティストとして2015年に設立された理想主義的な非営利研究開発団体でした。

 ところが、サスケバー氏を筆頭にOpenAIから真のイノベーターたちが去った影響が如実かつ露骨に出ているのが、GPT-5なる商品と言って間違いがないと思います。

 一言でいうと「技術としての」が見えなくなってしまいました。この周辺を深掘りしてみましょう。

「顔」があったGPTシリーズ

 才気あふれる20代のサスケバー氏を盛り立てて(あるいは「調子よく乗せて」)いた時期のOpenAIは、バージョンアップするたび、システムに画期的な新しい機能が付加されました。

 それにより世界のAI環境に大きな変化が生じました。

 2017年6月、グーグルのAI開発チームは「Transformer」と名付けられた画期的なシステム、具体的にはAIの命「アテンション機構」の心臓部というべき「エンコーダー=デコーダー・システム」を発表します。

 これを用いることで、旧来の「回帰型ニューラルネットワーク」システムよりも劇的に優れた「自然言語処理システム」の構築が可能になり始めました。

 これを受けて翌2018年、もともとグーグルの出身であるサスケバー氏らOpenAIチームは、古巣の労作Transformerをより賢くするべく、「事前学習」可能な「Pre-trained Transformer」(PT) による生成(Generative)AIの「GPT(-1)」 を発表します。

 これがGPTシリーズの原点となりました。

 これを拡張して方程式を解いたり自動翻訳したりもする「多目的学習機」としてスケールアップしたのが2019年に発表された「GPT-2」。

 さらに、最初にテキストとして命令(「プロンプト(prompt)」を与えると、人間が書いたようなテキストを出力できるよう特化して発展させたのが2020年の「GPT-3」でした。

 ただ、ここまでの段階では、いまだ開発者プロ集団への影響にとどまり、社会全体にインパクトを与えるには至らなかったように思います

 こうした状況が変化したのは、2022年11月30日、GPT-3をチャット用に最適化し、自然言語またはプログラミングのコードを理解し生成できるモデル GPT-3.5 turbo準拠「ChatGPT」が公開されて以降でした。

 これは、改めて強調するまでもないでしょう。Chat(チャット)GPT以降の生成AIブームです。

 こんな具合で、GPT-3.5ないしChatGPTには社会を変えるだけのテクノロジー=イノベーションとしての「顔」があった。

 コンピューターが人間に代わって作文やプログラムのソースコードを書いてくれるようになった、と社会全体が時代変化の認識を共有した。

 その結果何が起きたか?

 2022年12月以降、ただちにGAFAを筆頭に大量の人員削減、解雇の計画が発表され始め「AIは仕事を奪う」的な言説が加速度的に普及したのはご記憶と思います。