アラビア海に展開する米空母エイブラハム・リンカーンから発艦準備する米海兵隊所属の「F-35C」戦闘機(2月15日撮影、米海軍のサイトより)
ロシアの消耗が世界にもたらした影響
強大だと思っていたロシア軍がウクライナ軍に圧倒的な勝利ができていないのはなぜか。
さらに、ロシアがこれまで軍事支援を実施していた国々が、ロシアから離れる現象が起きている。それはなぜなのか。
それらの疑問に答えるには、ソ連邦崩壊後に旧ソ連軍が解体・縮小されロシア軍を主体とする形に再編されたことと、ウクライナ戦争による軍事力の膨大な消耗の2点を踏まえて考察する必要がある。
ソ連邦崩壊後、旧ソ連軍は解体・縮小されスリム化された。
その後、ロシア軍は急速な近代化は実施されなかった。新型の戦闘機や弾道ミサイルの開発が進められたものの、米欧の通常兵器の技術レベルとの差が開いたままであった。その差がウクライナ戦争で明確に分かった。
ロシアは、そのような兵力でウクライナ戦争を開始、そして4年が経過し、ロシア軍の損失は膨大なものとなっている。
また、この4年の戦争期間、特に侵攻後1年半が経過した2023年末頃から、ロシアの周辺国や影響が及ぶ国々では、ロシアが支援してきた政権が倒れたり、同盟国だった国がロシアから離れたりする事態が起きている。
特に注目すべきなのは、ロシアが軍事協力し、また反米主義を喧伝してきたベネズエラやイランを米軍が直接攻撃していることである。
ロシアは戦略的同盟国のベネズエラが攻撃を受けても軍事支援がほとんどできず、また友好国のイランについても、米国とイスラエルの攻撃を抑止できずにいる。
それは、ロシア軍がそれまで世界の軍事専門家が想像していたよりも弱かった、あるいは弱くなっていたからだと言えるだろう。
弱体化したロシア軍の実態を解明するために、強大だった旧ソ連軍がどのように解体・縮小されてきたかについてまず見ていきたい。
そのうえで、ウクライナ戦争で出した損害についても解説する。
そしてロシアがこれまで軍事協力してきた国々や同盟国に十分な支援ができなくなってきた現状と、ロシアを中心とする軍事協力関係が急速に変化している実態についても考察したい。
強大な軍事力を誇っていた旧ソ連軍
ソ連邦が崩壊する前の旧ソ連軍に対する評価は、米国国防情報局(DIA)が発刊した「ソ連軍(Soviet Military Power)」に掲載されたものが妥当だろう。
旧ソ連軍は、周辺国などに対し極めて強大な軍事力を保有する脅威として、欧州方面、中東方面、中国方面、日本北海道方面、アラスカ方面への侵攻能力があると見なされていた。
その方向が下図のように赤矢印で示されていた。
図 ソ連軍の侵攻能力とその方向
出典:Soviet Military Power 1988(DIA)から抜粋、筆者が日本に関係する地域に赤○を記した(図を鮮明にするため編集部で生成AIにより一部補正も加えた)拡大画像表示
「ミリタリーバランス1990-1991」では、他国に侵攻することが可能な通常兵器について、地上軍216個師団、戦車等約9万両、主要戦闘艦艇約300隻、潜水艦約300隻、戦闘機等約7500機、爆撃機約900機であり、圧倒的な軍事力であった。
当時、上図の赤矢印の範囲にあるロシア周辺の国々、特に日米欧にとっては、その軍事力について、極めて大きな脅威であると認識されていた。
私を含めた日本の軍事専門家は、中東方面への米軍展開が増えれば、図の赤○の部分にあるように、日本の北海道に対する限定的侵攻の可能性があるとも考えていた。
一方、旧ソ連と同盟・軍事協力関係にある国々は、旧ソ連の軍事的支援や協力を受け、また、その軍事力を背景に、米国の軍事的脅威に対する抑止力ともなっていたと考えられる。
この頃の旧ソ連軍の強大な軍事力は、今でも、ロシア周辺国に対して亡霊のように生き続けている面もあると思う。