
3月末での休館、都内への移転が決まっている千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館は、連日“駆け込み来館者”が押しかけ、入場制限が行われるほどの盛況だ。地元の行楽スポットとして34年以上にわたって親しまれ、昨年8月に突然休館が発表された際には佐倉市が5万8000筆を超える反対署名を集めた。
この休館騒動で注目されたのが、美術館を運営する化学メーカーDICの大株主のアクティビスト(物言う株主)。企業の美術品保有を巡って会社と株主が鋭く対立した同社の株主総会が3月27日に開かれた。結果は、美術品の売却と株主への還元を求めて現会長、現社長の再任への反対投票を呼びかけたアクティビスト側の主張は退けられ、取締役全員の再任など会社側が提案した全ての議案が可決された。決着はついたものの、企業による美術品購入はどうあるべきなのだろうか。
(森田 聡子:フリーライター・編集者)
「株主からの付託、社会からの要請に反する」と物言う株主
DICに美術品の売却を含めた資本効率の改善を迫り、“創業家寄り”の現経営陣の再任を阻止しようとしたのが、大株主である投資ファンドのオアシス・マネジメントだ。
香港に本社を置くオアシスは、近年台頭しているアクティビストを代表する存在だ。2023年8月にDICが通期最終利益の見通しを大幅に下方修正して株価が下落した後、オアシスが7%近くまで同社の株式を買い進めていたことが判明。直近のデータでは11%超を保有する。
オアシスによる“物言い”のターゲットとなったのが、1990年5月に設立されたDIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)だった。マーク・ロスコ、ジャクソン・ポロック、フランク・ステラなど20世紀米国美術を軸に国内の企業系美術館でも屈指のコレクションを誇り、とりわけロスコのシーグラム壁画7点を鑑賞するためにしつらえた「ロスコ・ルーム」は、世界で4カ所しかないロスコ作品のみの展示空間として内外の美術ファンに広く知られている。
美術館はコロナ禍もあって赤字運営が続き、DICは「資本効率の改善を重要な経営課題に掲げる」立場から2025年1月下旬での休館を発表(後に来館者急増を受けて3月末まで延長)。さらに、3月12日には公益財団法人国際文化会館とアートと建築の分野で協業することに合意し、国際文化会館が六本木の再開発を機に建て替える新西館に美術館を移転すると発表していた。
移転に当たり、DICは保有する美術品384点を、ロスコなどの主要作品を残して4分の1程度まで縮小。順次売却を進め、2025年12月期には100億円をメドに現金化して株主還元の原資に追加するとしている。
これに対し、オアシスは「本件協業は資産効率を高め、企業価値を高める経営を実現するために機動的に当該財産を活用する選択肢を事実上長期にわたって失う可能性を有するものであり、資本効率を意識した経営を行うことが上場企業経営陣に対しての社会的な要請である中、株主からの付託のみならず、社会からの要請にも明らかに反する行為である」と猛反発。DICの猪野薫会長、池田尚志社長の再任への反対投票を株主に呼びかけた。