安藤忠雄氏の設計で美術館に生まれ変わった「ブルス・ドゥ・コメルス」(写真:宮沢洋、以下特記以外は同じ)

(宮沢 洋:BUNGA NET編集長、編集者、画文家)

 コロナ禍の2021年、パリの中心部にある2つの歴史的建築が、日本人建築家によって見事な再生を果たした。1つは安藤忠雄氏による「ブルス・ドゥ・コメルス/ピノー・コレクション」、もう1つはSANAAによる「ラ・サマリテーヌ」だ。今回、2年遅れでようやく実物を見たが、どちらも素晴らしい出来だった。

 この状況は日本で例えるならば、東京・日本橋の歴史的建築を2つ、異なるフランス人建築家が相次ぎ改修して再生させた、という感じだろうか。安藤ウオッチャーであり、SANAAファンでもある筆者としては、コロナでなければすぐに飛んで見に行ったのだが…。ようやくできたリポートをお届けする。

安藤建築の中でもこれは傑作

 まず、「ブルス・ドゥ・コメルス/ピノー・コレクション」。場所はパリの中心部、レアール近く。2021年5月にオープンした美術館だ。

「ブルス・ドゥ・コメルス(Bourse de Commerce)」とは、フランス語で「商品取引所」の意味。もともとは18世紀に穀物取引場として建てられた。いかにも町のシンボルという円形平面・ドーム屋根の建物だ。19世紀末からは名前のとおりの商品取引所として使われていたが、21世紀になって役目を終えた。

再生後の外観

 フランスの実業家、フランソワ・ピノー氏がこれを改修してコレクションを展示する美術館とすることを考え、設計を日本の安藤忠雄氏に依頼した。ピノー氏と安藤氏は長い付き合いがある。例えば、ピノー氏が2009年にヴェネチアにつくった美術館「プンタ・デラ・ドガーナ」も安藤氏の設計だ。

 筆者は安藤氏の国内の建築を100近く見ている。その筆者が見ても、パリのこの建築は傑作だと思う。

 地上4階建ての1〜3階に10の展示室、4階にカフェレストラン、地下1階に多目的ホールやスタジオがある。

美術館に展示されていた旧建物の模型