バブル期の日本では企業美術館の建設が相次いだ。その1つが千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館だ。20世紀美術をはじめとする豪華なコレクションと広大な庭園を持つ同館は、地元や国内外の美術ファンから愛され、今年5月には設立34年を迎えた。しかし、それから間もない8月27日、2025年1月下旬での休館が発表された。
背後には、東京ドームやクスリのアオキホールディングスの社長に退陣要求を突き付けた、あの「アクティビスト(物言う株主)」の姿が見え隠れする。地元や美術関係者、美術ファンからの休館反対の声が高まる中、DICとその株主はどんな決断を下すのか。
(森田 聡子:フリーライター・編集者)
保有資産の価値は112億円
9月のとある週末、ほぼ10年ぶりにDIC川村記念美術館を訪れた。雑誌の編集者時代に美術特集で何度もお世話になり、休館する前に一度見ておきたいと思ったからだ。
前に来た時はがらがらだった京成佐倉駅からの無料シャトルバスがほぼ満席だったのには驚いた。北総台地の約3万坪という自然豊かな地にたたずむ美術館は、欧州に残る白亜の古城を彷彿させる。モダニズムの建築家・海老原一郎が設計を手掛けた。
展示室には、17世紀の巨匠レンブラント・ファン・レインや日本で人気の高いクロード・モネ、パブロ・ピカソ、マルク・シャガールなどビッグネームの作品が並ぶ。
しかし、中軸となるのは、何といっても、マーク・ロスコ、ジャクソン・ポロックなど米国の20世紀美術のコレクションだろう。
とりわけ2008年に増築された「ロスコ・ルーム」はロスコのシーグラム壁画7点を鑑賞するためにしつらえた特別な空間だ。ロスコ作品のみの展示空間は英国ロンドンのテート・モダンなど世界で4カ所しかないという。
運営するのは印刷インキや有機顔料で世界シェア1位の化学メーカー、DIC(ディーアイシー)。印刷や出版業界の関係者にはなじみの深い色見本帳「DIC」の版元だ。美術館は創業家出身の2代目社長、川村勝巳氏によって1990年5月に設立された。
そして開館34年を迎えた今夏、「2025年1月下旬での休館」と、その後は都内を候補に規模を縮小して移転、もしくは運営を中止することが発表された。
DIC川村記念美術館が所蔵する美術品は合計754点に上り、うち384点をDICが保有する。保有資産の価値は6月末で112億円に上るという。