9月末までに5万6000超の移転・休館反対の署名

 しかし、コロナ禍もあって近年は運営赤字が続き、「資本効率という側面においては必ずしも有効活用されておらず、資本効率の改善を重要な経営課題に掲げる当社として、社会的価値と経済的価値の両面から、美術館運営の位置付けを再検討すべき時期」にあるとの判断に至ったようだ。

 これに伴い注目されたのが、DICの大株主となっていた投資ファンドのオアシス・マネジメントだ。香港に本社を置く同ファンドは日本にも拠点を持ち、円安を背景に近年日本企業への投資を加速している。近年台頭する「アクティビスト(物言う株主)」の代表的な存在でもあり、東芝、東京ドーム、花王といった名だたる企業をターゲットにしてきた。

 英国のフィナンシャル・タイムズ紙は今年4月の記事で「DICやその他の企業は美術品の所在と価値について非常に曖昧な態度を取っている」と糾弾し、「多額の負債を抱え赤字を垂れ流しているDICやDICが拠点を置く日本は、同社が保有する美術品を株主の財産と見なす覚悟ができているのか」と苦言を呈している。これはDICの株主の声を代弁するものと言えるだろう。

 一方、地元は突然の休館発表に強く反発した。

 千葉県の熊谷俊人知事は「千葉の芸術振興に対して果たした役割は非常に大きく、移転や閉館は大きな損失」とコメントした。佐倉市の西田三十五市長は「今後も佐倉の地で営業を続けてほしいと切に願う」とし、「私と同じ思いを抱く皆さんとともに早急に存続に向けた有効な方策に取り組みたい」と決意表明した。

 これを受けて佐倉市の観光協会や佐倉商工会議所などによる「DIC川村記念美術館の佐倉市での存続を求める会」がすぐに移転・休館反対の署名活動をスタートし、9月末までに国内外から5万6000を超える署名を集めた。

 美術関係者の中からも落胆の声が相次いでいる。