休館“特需”で土日祝日の来館者は5倍に

 ある企業美術館の関係者も、2018年6月に国内の国公私立美術館416館が加盟する全国美術館会議が出した声明で「美術作品を良好な状態で保持、公開し、次世代へと伝えることが美術館に課せられた本来的な役割であり、収集に当たっては投資的な目的とは明確な一線を画さなければならない」と言及されていることに触れ、「資本効率」を優先させるDICの姿勢に疑問を投げかけた。

 ちなみに、全国美術館会議の有志による「DIC川村記念美術館の適正な存続を求める」署名活動も始まっている。

 企業が公益性の高い美術館事業を行う場合、公益財団法人などを設立して企業本体から切り離して運営することが多い。都内の企業美術館を例に取れば、ブリヂストンのアーティゾン美術館(東京・中央区)は石橋財団、損保ジャパンのSOMPO美術館(東京・新宿区)はSOMPO美術財団が運営に当たる。

 しかし、DIC川村記念美術館はDICの直接運営だ。なぜ財団法人にしておかなかったのかと言っても、時すでに遅しなのだが…。

 9月に美術館を訪れた際に出会った千葉県在住の50代の女性は、「学生時代に初めてロスコを見て感銘を受け、結婚後は子供も連れて家族でレジャーに訪れるなど、人生の思い出が詰まった場所。残された期間中、毎週とは言わないまでも、できる限り足を運びたい」と話した。

 こうした“特需”もあってか休館発表後は土日祝日の来館者が5倍に増え、DICは9月30日、休館のタイミングを当初の2025年1月下旬から3月下旬までに延ばすことを発表した。とはいえ、同社によれば延長はあくまで「来館者数の平準化」のためで、「縮小移転」か「休館」という将来の二択が覆ることはなさそうだ。