(英エコノミスト誌 2024年11月30日号)
無差別殺傷事件と抗議行動の増加を受け、社会の安定が損なわれることへの不安が募っている。
ここ数週間に相次いで起きた暴力事件が中国社会を震撼させている。
11月11日には南部の珠海市で自動車が人混みに突っ込み、35人が死亡、43人が負傷した。警察によれば、車を運転していた男は離婚後の資産の分け方に腹を立てていた。
その5日後には東部の無錫市にある職業技術学院(専門学校)で元生徒が刃物で8人を殺害した。卒業後の給料に不満を持っていたと言われている。
さらにその3日後には中部の湖南省にある常徳市で、小学校の前で子供を待っていた数家族の集まりに自動車が突っ込み、数人がケガを負った。
中国では、こうした事件は「社会への報復」攻撃として知られる。
ほかの犯罪が少ないことに慣れたこの国で、不気味なほどよく耳にするようになっている。
これらの事件の前にも、同様な暴力事件が北京の学校や上海のスーパーマーケットなどで起きており、その数は今年に入って少なくとも6件に上っていた。
犯人はいずれも男性で、刃物か自動車を武器としていた。怒りや絶望から罪のない傍観者に襲いかかるのが典型的なパターンのようだ。
国内では多くの人がその原因を説明しようとしている。経済面の苦境によって勢いが増しているのではないかという説も出ている。
社会不安への警戒強める共産党
中国共産党はそのような議論を嫌がっている。自らの統治が疑問視されることになりかねないからだ。
だが、それにもかかわらず、共産党は一連の襲撃事件がもっと深い問題の兆候であるかのような行動を取っている。
珠海で死者が出た2日後、習近平国家主席は全国の当局に「社会的安定を維持」し、「リスクを根元で制御する」よう命じた。
11月27日には共産党の機関紙「人民日報」が暴力事件について論評し、「氷の上を歩くかのごとく、高度の警戒を続ける」よう市民に求めた。
全国の地方当局は、警備態勢を強化し、トラブルを起こしそうな人物を特定し、事件に発展しかねないもめ事を鎮静化させる運動をスタートさせている。
中国ではメディアの報道や世論調査が厳しく管理されているため、どれほどの不満が渦巻いているのかを調べるのは難しい。
だが、当局が懸念を強める理由がある。
中国では不動産市場危機に見舞われてから住宅価格が急落しており、多くの人々が一生かけて蓄えた財産を失った。
不動産開発業者の経営破綻により、未完成の住宅だけが残った人もいる。過剰な生産能力と低迷する需要が相まって破産する製造業者も急増している。
米ワシントンにあるシンクタンク、フリーダム・ハウスによれば、2024年第3四半期に中国で起きた抗議行動は937件を数える。
2023年の同じ時期より27%多く、そのほとんどが経済面の不満によるものだ(図1参照)。