最近、おじさんが意外な場所で働く姿を見かける。給料が上がらない。本当に年金もらえるの? AIに仕事を奪われる…! 将来の不安から副業を始める中高年男性が増えているのだ。おじさんたちはどんな副業をしているのか、どれくらい稼いでいるのか、あるいはまったく稼げていないのか。組織をはみ出し、副業を始める全力おじさんの姿をより深くレポートする。(若月 澪子:フリーライター)
タイミーに感じる心理的ハードル
「思案橋」
一度、橋を渡ってしまったら、もう二度と戻れない。それが思案橋。江戸時代に三大遊郭の一つとされた花街、長崎の丸山の入り口にあった橋の名称である。
この橋を渡ったら最後、女郎買いの快楽に溺れ、財産を使い果たしてしまう。思案に思案を重ねることからこう呼ばれた。
「いこか、もどろか……」
思案橋をウロつくおじさんは、背中を押してくれる人を求めている。
「タイミーのアプリをインストールしたのですが、自分にはいい仕事がなくて。アプリを眺めつつ、応募したことは一度もないですね」
こう話すのは、パートの仕事を3カ月前に失い、現在は無職のLさん(62)。上下白のスポーツブランドのジャージを着た、ごく普通のおじさんだ。
スポットワークの「タイミ―」は、単発で日銭を稼ぐ仕事に応募できるアプリである。タイミ―はシニア利用者が増加中というような記事を見かけるが、実際のところ60代男性は少数派だ。
ただ、仕事のエントリーをためらいながらも、タイミ―のアプリはスマホにインストール済みという「タイミ―思案橋おじさん」にはよく出会う。特に元ホワイトカラーの男性は、肉体労働やサービス業ばかりのタイミ―求人に、心理的ハードルを感じる人もいるようだ。
「タイミ―を見ていると介護とか配達とか、コンビニの店員さんとかの募集ばかりですよね。うーん、やっぱり知的労働がしたいですよね。自分はIT系の会社が長かったので、パソコンを教えたりする仕事ができたらいいなと思っていますが」
タイミ―の求人に、オフィスワーク系の仕事はほぼ皆無だ。
Lさんは3カ月前まで機械メーカーで機械の検査をするパートで月8万円の収入があったというが、契約は1年で終了。貯金は0円。月7万円の年金のみで、両親が残した持ち家に一人で暮らしている。
そんな状況でも、とりあえずタイミ―の求人を眺めるだけの日々が続いているのだ。