谷桃子バレエ団の「白鳥の湖」。その裏側ではさまざまな事件があった(画像:谷桃子バレエ団YouTubeより)谷桃子バレエ団の「白鳥の湖」。その裏側ではさまざまな事件があった(画像:谷桃子バレエ団YouTubeより)

 年間再生回数5000万回を誇る谷桃子バレエ団の公式YouTube。お笑い芸人・キングコングの西野亮廣氏がその赤裸々ぶりに舌を巻いたことでも話題になった。

 だが、YouTube動画制作は、決して順調ではなかった。バレエ団運営側との対立、視聴者からの誹謗中傷──。谷桃子バレエ団のYouTube制作を担当する映像ディレクターで、『崖っぷちの老舗バレエ団に密着したらヤバかった』(新潮社)を上梓した、渡邊永人氏に動画制作の裏側を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──今回の書籍では、髙部さんが芸術監督を務める谷桃子バレエ団の公式YouTubeチャンネルを、渡邊さんが外注のディレクターとしてドキュメンタリー形式にリニューアルした裏側が書かれていました。バレエ団運営側(※)からYouTubeのリニューアルを打診されたとき、髙部先生はどう思いましたか。

(※)谷桃子バレエ団の運営は、フィットネスクラブの運営などを手掛ける株式会社NBHが行っている。

髙部尚子氏(以下、髙部):運営側からは「これまでの公式YouTubeチャンネルより、一歩踏み込んだ赤裸々な内容になる」ということを聞かされました。

 そのときは「そうなんですね、わかりました」という印象くらいしか抱きませんでしたが、実際に始まってみると、想像していた「赤裸々」を遥かに超えていました。

 私たちが「ここは撮らないでほしい」と感じるところは映さないでもらえると思っていたのですが、甘かったです。ふたを開けてみたら、そうはいきませんでした。

 それ以前のYouTube動画の撮影では、前もって「今日はこういう動画を撮ります」「こういう質問をします」という説明がありました。ですので、それに対して応えられるようにしておこうという準備ができました。

 新しいYouTubeの撮影ではそんなことは一切なし。また、以前は動画撮影後に内容チェックもしていたのですが、それもなくなりました。衝撃でした。

渡邊永人氏(以下、渡邊):そうですね。僕が谷桃子バレエ団のYouTube制作を始めてからは、配信前に髙部先生にチェックしてもらうことはありません。バレエ団運営側の責任者が確認するだけですが、動画の内容について修正が入ることはほとんどありません。

──渡邊さんが作成した初回から3回目までの動画は、すべてバレエダンサーの懐具合の崖っぷちぶりにフォーカスしたものでした。これに関して、髙部先生はどう感じましたか。

髙部:密着されたダンサーは、自分の家の中や私生活までさらけ出してくれていました。ある程度、覚悟がなければそんなことはできません。

 みんな偉いな、肝が据わっているな、と感心しました。

 ただ、私は「赤裸々になる」とは言え、少なくともバレエの芸術性にフォーカスしたYouTubeになるだろうと思っていました。お金の問題にクローズアップするなんて、予想だにしていませんでした。

YouTubeでは、ダンサーの私生活までさらけ出している(谷桃子バレエ団の「白鳥の湖」。その裏側ではさまざまな事件があった(画像:谷桃子バレエ団YouTubeより)YouTubeでは、ダンサーの私生活までさらけ出している(谷桃子バレエ団の「白鳥の湖」。その裏側ではさまざまな事件があった(画像:谷桃子バレエ団YouTubeより)

 初めの頃の渡邊さんはお金の話しかしていません(笑)。「これはいくらかかるんですか」「ダンサーはいくらもらっているんですか」とか。「赤裸々ってこういうことか」と痛感しました。

──渡邊さんは、バレエダンサーの懐事情についてどのように感じましたか。