テレビの動画制作から離れた理由
──髙部先生は、あえて明るく振る舞おうとしていたのでしょうか。
髙部:おそらく私は、もともとポジティブな人間です。なので、落ち込んでいる人がいたら明るいほうにお連れしたいという気持ちになります。渡邊さんに対しても、そんな感じだったと思います。
渡邊:なるほど。陽キャと陰キャでいいバランスだったということですね。
──渡邊さんは、当初はバレエに対して傍観者的立場でした。今回の書籍では、どんどんバレエにのめり込み「谷桃子バレエ団に何か還元できないか」「ダンサーに自分ができることは何か」と当事者の立場に移行する渡邊さんの心境が書かれていました。どのようにして、傍観者から当事者へ、心境が変化していったのでしょうか。
渡邊:僕はもともとテレビの動画をつくる仕事をしていました。
テレビのディレクターと取材対象者の関係は、とても希薄です。テレビのディレクターからしたら、面白いものが撮れればそれでOKです。完成した動画が何らかのかたちで取材対象者を幸せにしなくても問題ありません。
それが悲しくてテレビの動画をつくるのが嫌になり、ドキュメンタリーのYouTube制作を請け負う会社に転職しました。YouTubeであれば、二人三脚で取材対象者を幸せにする動画がつくれるのではないかと思ったのです。実際、僕のその予想は的中しました。
──これまでも、YouTube動画制作のためにさまざまな人を取材してきたと思います。ここまでのめり込んだのは谷桃子バレエ団が初めてですか。
渡邊:そうですね。バレエにのめり込んだというより、ダンサーや髙部先生にのめり込んだと言ったほうがいいかもしれません。
テレビとは違い、ドキュメンタリーのYouTubeは長期戦です。テレビと比較して取材量も圧倒的に多いですし、その分、取材対象者と過ごす時間も長い。結果、取材対象者のことがどんどん好きになっていきます。
この動画が髙部先生のためになったらいいとか、ダンサーさんのためになったらいいという気持ちが取材を重ねるごとに強くなっていくんです。
ただ、取材対象が髙部先生じゃなければ、正直、僕はここまでやらなかったと思います。
──髙部先生は、渡邊さんの心境の変化に気付いていましたか。