12月17日、国連難民高等弁務官事務所(UNCHR)は、アサド政権の崩壊によって、およそ100万人あまりのシリア難民が、来年にも帰国する可能性があると発表した。これを受けて、ドイツの連邦移民・難民庁はシリア難民の申請受付を凍結し、一部混乱も起きている。
さまざまな理由によって難民となる人は世界中にどれほどいるのか。どうして日本は難民の受け入れ数が少ないのか。『なぜ難民を受け入れるのか 人道と国益の交差点』(岩波書店)を上梓した、国際基督教大学教養学部政治学・国際関係学デパートメント准教授の橋本直子氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──本書の冒頭では、難民の定義や総数について書かれています。
橋本直子氏(以下、橋本):世界には、異なる難民の定義があります。
日本が締約している難民条約の定義で説明をすると、難民とは、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、政治的意見、この5つの理由によって迫害を受ける恐れがあり、それを免れるために国外に出ている人です(重大な犯罪行為をした人は定義から外れます)。
ところが、国によってはもっと広い定義を設けていて、アフリカやラテンアメリカの国々では、自然災害から避難して自国を出る人なども難民として扱う可能性まであります。
難民は世界にどれくらいいるのか、実はUNHCRでもその数を把握しきれていません。UNHCRの統計には、明確な難民ばかりではなく「難民っぽい人」も含まれており、その数は全世界でおよそ3160万人です(2023年末のデータ)。
こうした難民や難民に準ずる人々のすべてがいわゆる難民キャンプのようなところにいるわけではなく、既に「先進国」で定住を始めている人もいます。
──EU(欧州連合)諸国は、難民に準ずる別の地位を作ったと書かれています。
橋本:EUの難民の定義は、日本と同じ難民条約上の定義を採用しています。ただ、旧ユーゴスラビア紛争(1991年-2001年)の経験を踏まえ、「紛争避難民」用の枠も作りました。
流れ弾など紛争下における無差別暴力の影響から逃げて来た人たちが含まれますが、前述の難民条約の狭い定義には当てはまりません。
2022年2月以来ウクライナを逃れた人も一般的には「紛争避難民」に該当し、日本を含め、多くの国で極めて寛容な支援が与えられています。
日本でも昨年6月に入管法の改正があり、「補完的保護対象者」という、主に紛争地からの避難民のための地位を作りました。ウクライナ避難民も徐々にこの地位に移行していくことでしょう。