日本が年間に受け入れている難民の数

──日本の難民の受け入れ状況はどうなっているのでしょうか?

橋本:これも2つの異なる方式に分けて説明する必要があります。

 まず、難民であると主張する人たちが自らやってくる「待ち受け方式」ですが、法務省では1982年から庇護申請を受け付けています。

 ただ、日本に対する庇護申請者が年間2万人を超えたことは過去に一度もありません。他の国であれば年間数十万人ということは珍しくありませんが、日本は島国で、ビザもなかなか出しませんから、自力で辿り着く対象になることが少ないのです。

 一方、日本は「連れて来る方式」を2010年から始めていて、タイやマレーシアにいるミャンマー難民を受け入れています。最初、年間30人という数から始めて、今やっとその数が年間60人になりました。でも、たったの60人です。

 国際比較をする意味があるのかという批判はあるでしょうが、たとえば、バイデン政権下のアメリカでは、年間約10万人を第三国定住で受け入れました。

 西欧諸国でも、ウクライナ戦争前は人口数百万人という北欧の国々ですら年間数百から数千人の難民を第三国定住で積極的に受け入れてきました。しかも、北欧は前述のように、そのうち数十から数百人は脆弱な難民を優先的に受け入れています。

 日本の人口や経済規模を考えると、60人というのはあまりにも少ないという印象があります。

 第三国定住で来日した成人難民の95%以上は働いて納税者になっています。私の知っているミャンマーから来た難民の方は半年間必死で日本語を覚え、その後、靴工場に就職しました。今では月収50万円を稼ぎ、日本人と同等に納税し、社会保障費を支払っています。

 損得のみで考えるべきではありませんが、そのような視点を議論に入れても、決して損ではありません。

──日本政府の中でその数を決めているのはどこですか?

橋本:中心になるのは、内閣官房が主催する難民対策連絡調整会議です。閣議も通るので、基本的には霞が関と永田町で決めています。

 難民の受け入れは、就職先とセットで考えなければなりません。難民事業本部(RHQ)という半官半民の組織があり、ここが難民の就職支援を行っています。日本語は少しカタコトでも、難民は日本に恩義を感じており、概して働き者です。難民の雇用にご関心のある企業様は、難民事業本部にご連絡するのもいいと思います。

橋本直子(はしもと・なおこ)
国際基督教大学教養学部政治学・国際関係学デパートメント准教授

1975年、東京都生まれ。オックスフォード大学強制移住学修士号、ロンドン大学国際人権法修士号、サセックス大学政治学博士号取得。在ニューヨーク国連日本政府代表部人権人道問題担当専門調査員、国際移住機関ジュネーヴ本部人身取引対策課プログラム・オフィサー、国連難民高等弁務官事務所北部スリランカ(ワウニヤ事務所)准法務官、外務省総合外交政策局人権人道課国際人権法・人道法調査員、国際移住機関駐日事務所プログラム・マネージャー、一橋大学大学院社会学研究科准教授などを経て、現在―国際基督教大学教養学部政治学・国際関係学デパートメント准教授。(法務省)難民審査参与員、ロンドン大学高等研究院難民法イニシアチブ・リサーチ・アフィリエイト、専攻―国際難民法、強制移住学、庇護政策研究、国際組織論、著書―『難民を知るための基礎知識』(共著,明石書店)、Migration Policies in Asia(共編著,Sage)ほか