絵画と宗教は切っても切れない関係がある。どのような教えを中世宗教画が伝えてきたのか読み取ると、ユダヤと中東問題、イスラム教とユダヤ教の関係、その両方に深くかかわるキリスト教など、今につながるものが浮き彫りになる。レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』やミレーの『落穂拾い』など、有名絵画に隠された秘密とは。
※石角完爾『西洋絵画に隠されたユダヤの秘密』(笠間書院)から抜粋、一部編集した。
【1回目から読む】神とすら戦うユダヤ人が富のために生み出したものとは?絵画から学べなかった日本人と富を得たユダヤ人の差
【2回目から読む】「神は罪なき善人を殺すのか?」神をも言いくるめるユダヤ式交渉術とは
(石角 完爾:国際弁護士)
禁を犯したユダヤ人
ニコラ・プッサンには、『黄金の子牛の崇拝(The Adoration of the Golden Calf)』と名付けられた作品がある。ユダヤ人のみならず世界中のキリスト教徒の間でも知られた絵画であり、ロンドンの中心トラファルガー広場にあるナショナル・ギャラリーの貴重な絵画の一つである。
多くの日本人がロンドンに行かれた際、この絵を鑑賞しておられると思うが、ご覧になって分かるように、金色の牛の彫像の周りで、人々が踊り狂っている絵である。
人々といっても、これは実は全員ユダヤ人である。モーゼに連れられて、命からがら紅海を渡ってきたユダヤ人達が、神に助けられてたどり着いたサイナイ(Sinai)半島の地を旅するうちに、徐々に神の教えから離反し、ついにもっともおこなってはいけない偶像崇拝の禁を犯してしまった場面である。
モーゼがサイナイ山に登って、神の教えである「十戒の教え」を石板に刻んでもらい、山を下って来たところ、彼はとんでもないものを目にする。ユダヤ人達は40日間もモーゼに放っておかれた憂さ晴らしから、自分達の持っている金の装飾品を集めて溶かし、金の牛──日本でいえば天神様の牛のようなもの──を作り、これを崇め奉り、取り囲んで踊っていたのである。
サイナイ山から降りて来たモーゼは、神が書き込んだ石板(十戒)を肩に担いでいたのだが、この堕落したユダヤ人達の姿を見るや否や大きな怒鳴り声をあげた。
「貴様達、何をやっているのか!」
この神に違背したユダヤ人達、堕落したユダヤ人達に、モーゼは石板を投げつけて怒り狂ったのである。飛んできた石板に当たったユダヤ人達は、大怪我をしたり、その場でうずくまったりして驚いた様子であった。また、十戒が書かれた神の石板自体は残念ながら割れてしまった。