迫害や虐殺を受けた長い歴史の中で、その悲劇すらも乗り越え、蓄財とイノベーションのチャンスへと転換し、富を獲得してきたユダヤ人。日本のビジネスパーソンでも、ユダヤ人の成功哲学に興味を抱く人が多い。
ユダヤ人の蓄財術とその背景について、ヘブライ聖書と、その解釈を集めた議論集である「タルムード」「ミシュナ」と呼ばれる口伝律法を深掘りする連載の第2話。
◎第1話「ユダヤ人が重視する蓄財術の本質が詰まっている『ノアの方舟』の物語」
※石角完爾著『必ずお金が貯まるユダヤ蓄財術「タルムード」金言集』(小学館)から抜粋、一部編集した。
【神のテスト】
エイブラハムとサラの第1子に、アイザックという男の子がいた。
アイザックが10~11歳ぐらいに成長してきた頃に、神はエイブラハムに告げられた。
「エイブラハムよ。お前の最愛の息子のアイザックを連れて山に登れ。そしてアイザックを木の幹に縛りつけろ。その下に枯れ木を敷き詰めろ」
神を心から信用していたエイブラハムは、言われるがままにアイザックを連れて山に登っていった。
これを見ていたサラは、慌てふためいた。エイブラハムが神に言われて息子に何をするのか。ひょっとしたら、大変なことを神から要求されているのではないか。母親の直感から、真っ青になってパニックになった。
けれども、そうとは知らないエイブラハムはアイザックを木に縛りつけ、その下に枯れ木を敷き詰めた。すると神はエイブラハムに「枯れ木に火をつけろ」と告げ、そしてさらに言った。
「お前の持っているナイフを、お前の大切な息子に向かって振り下ろせ」
エイブラハムは、神の要求に対して全く疑いもせず、火をつけ、ナイフをまさに今、振り下ろそうとした。その時に、神の声が聞こえた。
「やめろ。それ以上ナイフを動かすのではない。よくわかった。お前の信仰心の深さ、忠誠心は今こそ証明された」
神はエイブラハムに、「アイザックの代わりに、羊を生いけ生贄にせよ」と告げた。
「ノアの方舟」の物語では、「一人の人間の中には、善と悪が同居している」という教えをお伝えした。では、今度はそれをどう見分けたらいいのか。そこで次の学びへとタルムードの議論は移っていく。