ツイッターの社員に究極の選択を突きつけたマスク氏。ユダヤ人もヘブライ聖書を通じて究極の選択を突きつけられている(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 迫害や虐殺を受けた長い歴史の中で、その悲劇すらも乗り越え、蓄財とイノベーションのチャンスへと転換し、富を獲得してきたユダヤ人。日本のビジネスパーソンでも、ユダヤ人の成功哲学に興味を抱く人が多い。

 ユダヤ人の蓄財術とその背景について、ヘブライ聖書と、その解釈を集めた議論集である「タルムード」「ミシュナ」と呼ばれる口伝律法を深掘りする連載の第2話。

◎第1話「ユダヤ人が重視する蓄財術の本質が詰まっている『ノアの方舟』の物語

※石角完爾著『必ずお金が貯まるユダヤ蓄財術「タルムード」金言集』(小学館)から抜粋、一部編集した。

【神のテスト】
 エイブラハムとサラの第1子に、アイザックという男の子がいた。
 アイザックが10~11歳ぐらいに成長してきた頃に、神はエイブラハムに告げられた。
「エイブラハムよ。お前の最愛の息子のアイザックを連れて山に登れ。そしてアイザックを木の幹に縛りつけろ。その下に枯れ木を敷き詰めろ」
 神を心から信用していたエイブラハムは、言われるがままにアイザックを連れて山に登っていった。
 これを見ていたサラは、慌てふためいた。エイブラハムが神に言われて息子に何をするのか。ひょっとしたら、大変なことを神から要求されているのではないか。母親の直感から、真っ青になってパニックになった。
 けれども、そうとは知らないエイブラハムはアイザックを木に縛りつけ、その下に枯れ木を敷き詰めた。すると神はエイブラハムに「枯れ木に火をつけろ」と告げ、そしてさらに言った。
「お前の持っているナイフを、お前の大切な息子に向かって振り下ろせ」
 エイブラハムは、神の要求に対して全く疑いもせず、火をつけ、ナイフをまさに今、振り下ろそうとした。その時に、神の声が聞こえた。
「やめろ。それ以上ナイフを動かすのではない。よくわかった。お前の信仰心の深さ、忠誠心は今こそ証明された」
 神はエイブラハムに、「アイザックの代わりに、羊を生いけ生贄にせよ」と告げた。

「ノアの方舟」の物語では、「一人の人間の中には、善と悪が同居している」という教えをお伝えした。では、今度はそれをどう見分けたらいいのか。そこで次の学びへとタルムードの議論は移っていく。