17世紀に銅版画で制作された「ノアの方舟」。あらゆる生命が「つがい」で乗船したという(写真:Roger-Viollet/アフロ)

 迫害や虐殺を受けた長い歴史の中で、その悲劇すらも乗り越え、蓄財とイノベーションのチャンスへと転換し、富を獲得してきたユダヤ人。日本のビジネスパーソンでも、ユダヤ人の成功哲学に興味を抱く人が多い。

 ITはもとより、マネーやビジネスなど様々なジャンルでユダヤ人の成功例が多く、「なぜユダヤ人は金儲けがうまく、追い詰められてピンチの時にも富とチャンスをつかみとることができるのだろうか」という関心が尽きないからだろう。

 ユダヤ人の蓄財術とその背景について、ヘブライ聖書と、その解釈を集めた議論集である「タルムード」「ミシュナ」と呼ばれる口伝律法を深掘りし、自らユダヤ教に改宗、ユダヤ人となった石角完爾氏が解説する。変化の激しい今の時代においても、その教えが普遍的なものだということが分かるだろう。(JBpress編集部)

※石角完爾著『必ずお金が貯まるユダヤ蓄財術「タルムード」金言集』(小学館)から抜粋、一部編集した。

 ヘブライ聖書には様々な物語が登場する。そこにほんの一部だけ書かれた「神の意図」について、「ヘブライ聖書のこの一節に書かれている内容は、一体何を意味しているのか?」とユダヤ教徒が侃々諤々と交わした膨大な議論をまとめたものが「タルムード」だ。

バビロニア・タルムードの最初のページ。枠と番号が示す内容(写真:GordonGlottal, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons)

 あくまでも議論集であって、タルムードにも「正解」はない。なぜならば、ユダヤ教においては正解にたどり着くことを目的としていないからだ。

 正解よりも、人が思いつかないような場面、現実には起こり得ないことまでも、次々と議論を想定する能力を養うことを重要視しており、この能力こそが、現代のユダヤ人の成功と密接な関係がある。

 以下、ノアの方舟の物語を通して考えてみよう。