『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にした『光る君へ』。NHK大河ドラマでは、初めて平安中期の貴族社会を舞台に選び、注目されている。第28回「一帝二后」では、藤原道長が、一条天皇に中宮の定子がいるにもかかわらず、入内させた娘の彰子も中宮にしようと考えた。天皇の后を二人にする「一帝二后」をもくろむ。難色を示す一条天皇に対して、蔵人頭の藤原行成が説得にあたることとなり……。今回の見どころについて、『偉人名言迷言事典』など紫式部を取り上げた著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)
一条天皇に“一帝二后”を納得させた藤原行成の「もっともな理屈」
長保2(1000)年2月、中宮の定子を皇后宮としたうえで、藤原道長の娘・彰子(あきこ)が中宮として立后されることとなった。1人の天皇に2人の后がいるというのは、異例の事態である。
道長はいかにして目的を果たしたのか。今回の放送では、その経緯が丁寧に描かれている。「一帝二后」(いっていにこう)について意見を求められた吉田羊演じる姉の藤原詮子(あきこ)は、道長の発想力に感心している。
「道長、すごいことを考えるようになったのね。1人の帝に2人の后……いいんじゃないの」
問題は一条天皇をどう説得するかだ。「一帝二后」は前例がないうえに、一条天皇は后である定子を相変わらず寵愛し、第1皇女と第1皇子も生まれている。
ドラマでは、塩野瑛久演じる一条天皇が「后を2人立てるなぞ、受け入れられるものではない……朕の后は定子ひとりである!」と当初は反発するも、「彰子を形の上で后にしてやってもよいやもしれん。朕も左大臣と争うのはつらいゆえ……」と考え直し、彰子を后にすることをいったんは受け入れている。
しかし、そうかと思えば「定子が傷つく」と最終決断ができずにいると、渡辺大知演じる蔵人頭の藤原行成(ゆきなり)が覚醒し、次のように苦言を呈した。
「恐れながら、お上はお上であらせられまする。一天万乗(いってんばんじょう)の君たる帝が、下々の者と同じ心持ちで妻を思うことなどあってはなりません」
行成がどのように天皇を説得したのかは、自身で『権記(ごんぎ)』に記している。行成の理屈はこうだ。中宮とは、神事に奉仕するために設けられている。しかし、定子が出家してしまっているために務めを果たせていない、というのだ。
「中宮を新たに設ける必要がある」という結論を導くのに説得力のある意見だといえよう。さらに「我が国は神国なり。神事をもって第一にすべし」(『権記』)と畳みかけたことは、ドラマでも次のようなセリフとして反映されている。
「なすべき神事がなされぬは、神への非礼。このところの大水、地震などの怪異は、神のたたりではないかと私は考えまする。左大臣様もそのことを憂いて、姫様を奉ったのだと存じます。ここは一刻も早く、女御、彰子様を中宮様と成し奉り、神事を第一にすべきでございます!」
今回の件に限らず、これまでの行成の労をねぎらって、ドラマでは道長がこんな言葉をかける場面もあった。
「そなたの立身はもちろんこのオレが、そなたの子らの立身はオレの子らが請け負う」
これも『権記』に同様の内容が記載されているので、実際にこれに近いやりとりがあったのだろう。