『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にした『光る君へ』。NHK大河ドラマでは、初めて平安中期の貴族社会を舞台に選び、注目されている。第27回「宿縁の命」では、藤原道長の娘・彰子が入内するも、その6日後に定子が一条天皇との間に第一皇子を出産。ますます定子に気持ちが傾く一条天皇だったが……。今回の見どころについて、『偉人名言迷言事典』など紫式部を取り上げた著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)
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ただの“女好き”ではなかった花山院の見せ場
長保元年(999年)11月1日、藤原道長は12歳の娘・藤原彰子(あきこ)を一条天皇のもとに入内させた。
すでに一条天皇は中宮・藤原定子との間に、第一皇女となる脩子(しゅうし)内親王が産まれている。なんとか一条天皇の気持ちを定子から引き離して、彰子との子をもうけてもらわなければならない。道長はそう考えたことだろう。それには最初が肝心だと、入内をインパクトのあるものにするべく、入念に準備を進めることとなった。
今回の放送では、道長が「彰子の入内はどうしても盛り上げなければならん」と言いながら、屏風をじっと見つめると、ひらめいた顔で妻の倫子に熱弁を振るうシーンがあった。
「あ、ここに公卿たちの歌を貼ったらどうであろう? 公卿たちが内裏で歌を献じたことを示せば、帝も彰子に一目を置かれるであろう」
実際の道長も、日記に「四尺屏風和歌令人々読」とあるように、和歌を集めた高さ4尺の屏風を作り、彰子に持たせたらしい。人気絵師の飛鳥部常則(あすかべのつねのり)に屏風絵を描かせ、えりすぐりの歌人たちから和歌を集めて、名書家の藤原行成(ゆきなり)に屏風歌を書き込ませたという。
道長のリクエストに応じた歌人は、藤原公任(きんとう)、藤原高遠(たかとお)、藤原斉信(ただのぶ)、源俊賢(としかた)という豪華なラインアップ。和歌を依頼して回ったのが、自身も和歌を献上した源俊賢である。
さらに、この和歌屏風には「詠み人知らず」という形で、花山院の和歌まで加わっている。ドラマでは、藤原行成が花山院の和歌をうれしそうに持ってきて「そもそも奇矯の振る舞いが多い院ではございますが……」と評されていたのが、なんともおかしかった。
花山院は女性スキャンダルばかりがクローズアップされがちだが、和歌や絵画、工芸などの才能に恵まれており、「風流者」とも呼ばれた。今回の放送で本人の登場シーンはなかったが、そのことがかえって花山院の存在を際立たせることになったように思う。