大阪・関西万博でデモ飛行が披露された丸紅グループの空飛ぶクルマ「HEXA」(写真:共同通信社)

 大阪・関西万博で何とかデモフライトにこぎつけた“空飛ぶクルマ”ことエアモビリティ。それに先立ってANAホールディングスが2027年の商用飛行開始をアナウンスするなど動きが活発化しているが、任意の2地点間の移動には当面使えそうになく、需要の広がりがどのくらいになるかは未知数。果たしてエアモビリティはこの日本でも大きく羽ばたけるのか。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。

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「ドローンの巨大版」のホバリングを見て感じたこと

 4月13日、大阪・関西万博が開幕した。目玉イベントのひとつ、“空飛ぶクルマ”のデモフライトは初日は天候不順のためブルーインパルスの曲芸飛行とともに中止されたが、14日はフライトが行われている。

 顧客を乗せての有償フライトという当初の構想は昨年の段階で崩れたものの、とりあえず飛行にこぎつけられることができ、関係者は胸をなで下ろしていることだろう。

 航空機が公の空を飛ぶためには型式証明(量産時に設計どおりのものが作れるというお墨付き)、耐空証明(一定飛行時間、機体に起因する事故が絶対起こらないというお墨付き)が必要だが、有人ドローンについてそれらの制度設計をどうするかは世界でもまだ確定的なものが出ておらず、万博での有償フライトは当初から絶望的とされていた。

 万博開幕前に日本陣営のスカイドライブがホバリング(空中静止)のデモを行った。その様子を見る限り、機体の完成度の面でも人員輸送にはまだ心もとないという印象があった。スカイドライブは機体の上に12個の小型ローターを並べたマルチコプターで、ドローンの巨大版のようなもの。

 そのホバリングの様子は報道でも広く伝えられたが、静穏な気象であったにもかかわらず、前後左右に数度ずつ揺れながら静止するという様子が見て取れた。ヘリコプターに搭乗したことがある人なら分かるが、着陸時にこの揺れの大きさだとちょっと怖く感じる可能性が高い。

 シングルローターの通常のヘリコプターの場合ホバリングはもっと難しく、マルチコプターレベルの空中静止を行うのはプロのパイロットでなければ難しい。だが、ヘリコプターの離着陸は完全に垂直でなければならないということはなく、前進降下で機体の安定を保ちながら着陸できる。

 マルチコプターは垂直離着が基本であるためそうはいかない。ホバリングを横風などを受けてもぴったりと安定させられて初めて誰もが気軽に乗れるというレベルになる。それに向けて一層のブラッシュアップが求められるというのが現在地であり、今回は飛行ルートを限定してのデモフライトにこぎつけられただけでも御の字といったところだろう。

「空飛ぶクルマ」離着陸場の竣工(しゅんこう)セレモニー(2025年3月28日、写真:共同通信社)