ホンダ「N-ONE RS」の6速MTシフトノブ。質感良く作られている(筆者撮影)

井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)

乗用車マーケットにおけるMT車の比率はごくわずか

 2025年4月に普通自動車運転免許取得の制度が改定され、AT(自動変速機)を基本とし、MT(手動変速機)はオプション扱いとなった。AT限定免許が登場した1991年から約四半世紀の間に乗用車のほとんどがAT車となった。その実態に合わせた格好だが、この改定でMT車の“絶滅”がいっそう早まることも考えられる。

 マーケットを見ても、今やMT車はごく少数派だ。日本自動車販売協会連合会(自販連)によれば、2019年の時点で乗用車マーケットにおけるMT車の比率は全体の1.4%にすぎなかった。

 MT派のユーザーからはMTが消えるたびに嘆き節が噴出するが、自動車メーカーがユーザーの関心が薄れた商品を廃版にするのは当たり前のこと。MTに乗りたいなら「このクルマにMTがあればいいのに」といった叶わない願望を抱くのではなく、今あるMT車が消えてしまわないうちに乗るというのが最適解であろう。

 ということで、免許制度改定を契機にMT車で長距離ロードテストを行ってみた。

 クルマはホンダの軽自動車、第2世代「N-ONE RS」の6速MT。第1世代のRSはCVT(無段変速機)のみだったが、第2世代はディスコン(製造終了)になった軽ミッドシップスポーツ「S660」の6速MTを流用してMTが新設された。現在N-ONE全体の1割がMTであるという。

 ドライブルートは東京~鹿児島周遊で、本稿執筆時のマイレージは鹿児島までの往路完走に若干の鹿児島市街地走行を加えた約1600km。

ホンダ「N-ONE RS」6速MT車のフロントビュー(筆者撮影)

 筆者のマイカー歴はスズキの第1世代「アルト」の2速ATに乗ったのを除き、マツダ「コスモローターリーターボGT」、トヨタ「スプリンタートレノGT APEX(AE86)」、ルノー「アルピーヌV6ターボ」、フォルクスワーゲン「ゴルフ2ディーゼル」、マツダ「ランティスクーペタイプR」等々、すべてMT車。

 根がMTフェチなので、以前は長距離ロードテストにおいてもMT車がある場合は好んでそれを選んでいたが、1000km超のテストは2018年のマツダ「CX-3ディーゼル」が最後。MTモデルがめっきり減り、評価用の広報車両が用意されるケースも激減したので機会を失っていたのだ。

 MT派はすでに完全マイノリティという自覚を持ちつつ7年ぶりのMT長距離レビューに入っていこう。