MTファンにとって萌え要素満載の「シフトフィール」

 N-ONE RSの場合、そういう特質に加えて軽自動車ならではの特性によって、MTが余計に楽しく感じられた。

 第1はシフトノブがステアリングの左、ほんの10cm少々のところに設置されていること。コクピットが狭い軽自動車でAT車のシフトレバーと同じ場所にレイアウトすれば必然的にこうなるのだが、まるで昔のアルファロメオ「スパイダー」のようにクイックシフトが可能。これはMTファンにとってはかなりの萌え要素だ。

 第2は6速MTのギア比がかなりクロスレシオだったこと。1速が回転限界の7000rpm時で車速45km/h、2速が70km/h、3速が90km/h。一方で6速の100km/h巡航時の回転数は同じエンジンを積んだCVT車よりかなり高い約3200rpmと、ローギアかつギア間の変速比の差が詰まっている。

 このギアレシオだと、一般道や制限速度が低めの自動車専用道路を走っているだけでも1速から6速までをフルに使うことになる。シフト回数はそれだけ増えるが、この時代にわざわざMTを作っただけあってN-ONE RSのMT機構はとても丁寧にチューニングされており、ストレスを感じる要素が非常に少なかった。

ホンダ「N-ONE RS」(関ケ原の史跡、石田三成陣地前にて。筆者撮影)

 シフトフィールはゴリゴリというフリクション感が非常に少なく、それでいてギアに入れる時の“コリッ”というクリック感は明瞭。昔なら超高級スポーツカーの専売特許であった感触である。

 それに加えてエンジンマウントもCVT車とまったく異なるとみえて、エンジンとドライブシャフトが直結となるMTの低ギアでスロットルを急に抜いてもエンジンマウントがそのショックに耐えて前後方向のガクガクとした動きはごく小さい。

 高剛性マウントの代償としてエンジン音の室内への侵入はCVT車よりかなり大きいものになっていたが、音は3気筒ながら金属音を伴ったなかなか勇ましいもので、スポーティな感触を求めるユーザーにはかえって好ましく感じられることだろう。

 峠道でも町から一歩出るや80~100km/h制限が普通の欧州と異なり、日本ではスポーティなモデルといっても一般道では攻め攻めに走るのは難しい。が、合法的に楽しめるところも結構ある。その最たる道は制限速度60km/hながらタイトコーナーが連続する山奥ロードである。

 64馬力エンジンとクロスレシオのMTを組み合わせたN-ONE RSにとって、そういう道はまさに大好物という感じだった。トルクがおいしい2500~5000rpmのバンドを使って走るとすると、そういう山岳路では3速と4速を交互に使うことになる。別に他人と競争するわけではないのでそれで十分楽しめるのだ。