「MT車はAT車より燃費が劣る」は本当か

 MTのメリットをもうひとつ挙げると、燃費である。燃費についてはJC08モード*注の時代、MTよりCVTや有段ATのほうが上回るというモデルが多数出現したため、MTは今や燃費が劣るという神話が出来上がった。

*注:自動車の燃費を測定するための日本独自の試験方法で、2011年から2018年まで使用されていた。従来のモードよりも、実際の走行状況に近い条件で測定できるように改善されており、エンジンが冷えた状態からのスタートや、細かな速度変化などが考慮されていた。2018年10月からは、国際基準の「WLTCモード」に切り替わった。

 だが、これにはいくつかのカラクリがある。まずは燃費の計測法で、ATはDレンジで走行すればいいのに対してMTは必ず1速で何回転まで、2速では何回転とシフトチェンジのポイントが細かく決められている。それがMTにとってえらく不利な値であったため、簡単に燃費で逆転を許すことになった。

 もう一点はMTのほうがATより加速重視のローギアードになっているものが主流になったためである。

 今回のN-ONEもMTの燃費審査値はCVTより若干だが低い。JC08モードだとCVTの25.6km/リットルに対してMTは22.0km/リットルと1割以上のビハインド、WLTCでもギア比の差が効いたか21.8km/リットルに対して21.6km/リットルとわずかに負けている。

 ところが実際に走ってみたところ、東京出発後、兵庫の豊岡までの685.8km区間が24.7km/リットル、その後福岡の田川までの558.6km区間が24.2km/リットル、鹿児島までの残り317.5km区間が23.2km/リットルだった。

 第1レグは残り100km地点でガス欠を恐れてエコランを敢行したという特殊事情があったが、第2レグは交通の流れがぐっと速くなる山陰道主体、第3レグはさらに平均車速の高い九州自動車道中心だったことを考えると、軽ターボカーとしては望外の数値で、過去に同区間をもっとスローペースで走ったN-ONEの自然吸気エンジン+CVT車を圧倒した。

 モード燃費では負けるが、ギアの選択が適切でありさえすれば飛ばし気味に走っても十分に好燃費を叩き出せるというのはMTのメリットと言えるだろう。

MTはCVTやATに比べて燃費で不利とよく言われるが、今回のテストでは逆の結果が出た(筆者撮影)

 楽しさとは別の話だが、MTのメリットをもうひとつ。高齢ドライバーの誤発進抑制にMTが効くのではないかという意見をよく目にするが、あらためて乗ってみるとその効果は相当に期待できるように思われた。

 アクセルを踏んで走り出すという作業自体は同じだが、そこにクラッチミートという要素が1つ介在すると自分の操作を間違えていることを察知するのが容易であるし、びっくりしたらまず反射的にクラッチを切るだろう。常に操作するデバイスで動力系統を完全に遮断できるというのはやはり大きい。