ベンチャー企業スカイドライブなど5社が、大阪・関西万博で運航させる「空飛ぶクルマ」のモデル(写真:つのだよしお/アフロ)
  • 大阪・関西万博の目玉として注目を集める「空飛ぶクルマ」について具体的な内容が見えてきた。
  • だが、JALのパイロットとして長く航空事業に関わった経験を持つ筆者からすると、事業性、安全性の面で大きな疑問がある。
  • このままでは開発が頓挫した「日の丸ジェット」と同じ道を歩んでしまう恐れがある。

(杉江 弘:航空評論家、元日本航空機長)

機体の価格は約2億円

 2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)で目玉の一つとされている「空飛ぶクルマ」の価格や活用方針が明らかになってきた。その内容から判断すると、国土の狭い日本だとビジネスとして成立させるのは難しいと筆者は見ている。

 そして強調したいのは、将来パイロットを乗務させずに無人で飛ばすことの安全性への懸念である。

 空飛ぶクルマは、垂直に離着陸する大型のドローンのようなもので、ヘリコプターと基本は変わらない。違いは電動ということくらいだ。ヘリはパイロットが操縦するが、仮に無人で遠隔操縦などの方法で運航されたとして、そのような乗り物にどれくらいの人が乗るのだろうか。私ならとても怖くて乗れない。

 その理由については後述するが、ベンチャー企業がこぞって手がける空飛ぶクルマは、無用の長物になる前に開発を中止した方が賢明だろう。

 万博で実用化を目指すベンチャー企業のスカイドライブでは、機体(SD-05)の価格は約2億円(150万ドル)と明らかにしている。法人だけでなく個人にも販売し、ホームページで購入希望者の応募を受け付けるという。

 実際に機体を運航するには、JALやANAなど運航事業者への委託費用が別途必要になる。運用の方法については、国や事業者などで構成する協議会が、実用化に必要な規則やシステムなどの検討を進めてきた。

 今年3月にその基本的な考え方の案が発表された。それによると2020年代後半以降には、「コリドー」という空の通り道のような専用の空域を設定して、一部で従来の航空機より高い密度で運航するとしている。