2024年1月20日の米大統領就任式を前に、ドナルド・トランプ氏の発言が物議を醸しています。かつて米国が建設・所有していたパナマ運河を取り戻すと言ったり、デンマークの自治領グリーンランド購入に意欲を示したり。隣国カナダに対しては「米国の51番目の州になればいい」と言い放ちました。バイデン大統領の4年間をはさんで2度目の大統領就任となるトランプ氏は、まるで米国の領土拡張を画策するかのような発言を続けているのです。いったい、どういうことなのでしょうか。やさしく解説します。
(西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス)
なぜ「パナマ運河を返せ」と求めるのか
トランプ氏は2024年11月の大統領選で勝利した後、閣僚選びなど政権移行の準備を進めていました。そのさなかの12月下旬、アリゾナ州の集会でトランプ氏は唐突に「パナマ運河でわれわれは暴利をむしり取られている」と言い出したのです。
パナマ運河は20世紀初頭、米国が莫大な資金を注ぎ込み、10年の歳月をかけて建設しました。1914年の完成後は米国が管理していましたが、自治を求めるパナマ国民の要求が盛り上がり、1977年に米カーター政権が運河をパナマに返還する条約を締結しました。
トランプ氏は「この寛大な措置に対し、道徳的、法的な原則が守られないなら、われわれはパナマ運河を返還するよう求める」と主張しています。この「原則」という言葉には、運河に関する権益を別の国に渡すなという意味が込められており、安全保障や経済面で米国の国益を確保しようとする意図がうかがえます。
パナマ運河の大西洋側と太平洋側の両端にある港湾は現在、香港系の企業が管理しています。これが必ずしも中国政府が運河を牛耳っていることにはなりませんが、トランプ氏は「運河が悪い奴らの手に渡ってはならない」と発言。米国の軍艦が運河を通行することも想定し、米国による管理強化を狙っているのです。
パナマのムリノ大統領は「運河とその隣接地域はどの1平方メートルを取っても全てパナマのものだ」と主権譲渡を拒否しました。通航料で暴利を貪ってはおらず、中国の影響力も受けていないと説明しています。
しかし、トランプ氏は米国の強大な軍事力や経済力に訴えてでもパナマ運河を取り返す構えを見せています。