「力による現状の変更」そのもの

 他国の領土を自分の好きなように使おうというトランプ氏の主張には危うさがつきまといます。他国の主権を度外視した領土拡張主義そのものであり、同様の発言を続けていると、強い反発を招くのは必至でしょう。

 領土をめぐる権益の対立が戦争に発展した例は歴史上少なくありません。トランプ氏の主張はウクライナを自国の勢力圏と位置付けて軍事侵攻したロシアと根本的に違わないと言えるのです。

 今年1月7日、大統領選での勝利が連邦議会で正式に認められると、その翌日、トランプ氏は米フロリダ州の私邸で記者会見し、パナマ運河返還やグリーンランド買収に向けて、米国の強大な軍事力や経済力を行使して実現を図る可能性を排除しない考えを示しました。まさに日本政府をはじめ国際社会がロシアや中国を批判する際に持ち出す「力による現状変更」と同じです。

 トランプ氏の狙いは強硬な主張を掲げて相手の譲歩を引き出そうとすることにあると見られますが、国際法上、主権や領土の一体性は尊重されなければなりません。発言の真意が米国の国益を追求することにあるのなら、国際法を順守して冷静な話し合いで解決策を導く姿勢を示さなければならないでしょう。

西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。

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