国際情勢やリスクの分析を手掛ける米国の調査会社「ユーラシア・グループ」が先ごろ、2025年の10大リスクを公表し、「深まるGゼロ 世界の混迷」をトップに据えました。「Gゼロ」とは、国際社会で主導的役割を担っていた大国の力が低下し、リーダー国家がなくなる状態を指します。「米国第一主義」を掲げる2期目のトランプ政権が発足することで、世界はさらにGゼロ状態に近づくとされていますが、そもそもなぜ、このような見通しに至ったのでしょうか。「Gゼロ」とそれを取り巻く問題をやさしく解説します。
2025年の「10大リスク」
ユーラシア・グループは米国の著名な政治学者イアン・ブレマー氏が代表を務める企業で、1998年以降、年初になると、世界政治や経済に深刻な影響を及ぼしそうな事象を予測し、公表しています。ブレマー氏は2012年に著書『Every Nation for Itself: Winners and Losers in a G-Zero World』(邦題:『「Gゼロ」後の世界:主導国なき時代の勝者はだれか』)を発表。第2次世界大戦後に世界のリーダーであり続けた米国の力が低下し、世界は多極化していくとの見通しを発表して注目されました。
この1月に公表された2025年の10大リスク(TOP RISKS 2025)によると、5位は「Russia still rogue(ならずもの国家のままのロシア)」、4位は「Trumponomics(トランプノミクス=トランプ政権の経済政策)」、3位は「US-China breakdown(米中決裂)」、2位が「Rule of Don(トランプの支配)」でした。いずれも2025年中に大きな危機をもたらす可能性があるポイントとされています。
そして1位が「The G-Zero wins」でした。Gゼロの世界が一段と深まり、世界はリーダーを失ってさらに混迷するだろうとの予測です。
ブレマー氏によると、「Gゼロ」とは、グローバルな課題への対応を主導し、国際秩序を維持する意思・能力を持つ国家や国家の集まりが存在しない状態を指します。端的な例は、冷戦崩壊後も「世界の警察官」としての地位を維持してきた米国が、そのリーダーシップへの関心を弱めてきたことです。
他方、新興国が力を増してきたことで、世界をリードしてきたG7(米国、日本、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ)も存在感が薄くなってきました。G20(G7にブラジルや中国、インド、メキシコ、韓国、南アフリカ共和国など19カ国と、欧州連合=EUを加えたグループ)、さらには米国と中国によるG2も、政治や社会、経済といった広範な分野で世界秩序を維持する存在にはなり得ていません。