岡藤正広・伊藤忠商事会長CEO(写真:ロイター/アフロ)
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「私の履歴書」が久々に面白い

 元日から今月いっぱい続く『日本経済新聞』最終面の連載「私の履歴書」が、すこぶる面白い。自身の半生を赤裸々に開陳しているのは、伊藤忠商事の岡藤正広代表取締役会長CEO(75歳)である。2010年に社長となって以来、同社に君臨する経営者だ。

 私は日経新聞を読み始めて、もう半世紀近く経つが、このところの「私の履歴書」は、実につまらなかった。最後に感銘を受けたのは、「ジャパネットたかた」創業者の髙田明氏の月(2018年4月)だったか。

「私の履歴書」は周知のように、各界で名を成した人が1カ月にわたって自身の半生を振り返るシリーズだが、特に無味乾燥なのが、創業者でない大企業の会長や名誉会長、相談役らが出てくる月だ。彼らの「サラリーマン出世物語」はとかくチンケで、かつご当人が所属する企業の社員向けに述べているのがミエミエなのだ。一般読者の人生の糧(かて)になるものなど露(つゆ)ほどもなく、「そんな話は社内でやってくれ」と、文句の一つも言いたくなる。

 ところが、今月連載中の岡藤会長の半生は、無性に痛快なのである。大阪の貧しい家に生まれ、若くして大病を患い、2浪もして東大に入り、商社に入社しても芽が出ず……。七転び八起き、紆余曲折、臥薪嘗胆(がしんしょうたん)、一発逆転……そこには、「昭和の野武士」とでも呼ぶべき精神が、通奏低音として響いている。

(写真:ロイター/アフロ)
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 たしかに令和の現在でも、創業者社長には、しばしばこの手の経営者が存在する。上記の髙田氏がそうだし、ユニクロの柳井正CEOやソフトバンクの孫正義CEO、ニトリの似鳥昭雄CEOらは、その典型だろう。

 これに対して、いわゆる「サラリーマン社長」の場合、「昭和の野武士」のような人物は、ほとんど見当たらない。なぜなら、そんな人はサラリーマン人生の途中で淘汰(とうた)され、左遷されてしまうに決まっているからだ。『半沢直樹』や『サラリーマン金太郎』は、あくまでドラマやマンガの中のフィクションなのだ。