〓〓(写真:筆者撮影、以下同)オーストリア中部のグムンデン市内。都市圏人口約5万人の小都市だが、日中15分間隔で新型の路面電車が通る中心部では、日常は自動車を使わない省エネで環境負荷の低い暮らし方もじゅうぶん選択肢に入る(写真:筆者撮影、以下同)

(柴山多佳児:ウィーン工科大学交通研究所 上席研究員)

「エコカーで解決」そんな印象のエネルギー白書

 電気自動車や、水素燃料を用いる燃料電池車が話題に上らない日はない。排ガスも出さず、エコな未来の自動車――。そういったイメージを国内外の自動車メーカーは打ち出して宣伝する。

 2050年の二酸化炭素排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)に向けて、自動車の燃料を化石燃料から転換することは重要な施策の一つである。しかし、交通全体が電気自動車や燃料電池車で容易にカーボンニュートラルを達成できるか、というと、ことはそう単純ではない。今回はこの観点から詳しく見ていこう。

 トヨタのプリウスが登場したのは1997年であった。ハイブリッド車や、低燃費の自動車からさらに発展して、現在では電気自動車や水素を燃料とする燃料電池車の開発が進み、一般向けにも販売されている。

 儲からない公共交通などいっそすべてやめてしまって、電気自動車や燃料電池車で移動をすべてまかなってしまえば、地球温暖化は抑制できる…。電気自動車なら排ガスも出ないからクリーンだし、電気や水素を使って走るならガソリンのような化石燃料だって不要だし…。素朴にそう思っている方がいてもおかしくない。

 資源エネルギー庁発行の2024年版のエネルギー白書を見ると、「日本の運輸部門におけるエネルギー消費の大半は、ガソリンや軽油の使用を前提とする自動車によるものであり、これらの燃料の消費を抑制する次世代自動車の導入は、気候変動対策等の観点から非常に重要です」との記述がある(第2部第1章第3節の3)。

 これも、あたかも電気自動車や燃料電池車が問題を解決してくれるかのような印象である。

電気自動車はエコ ――。そんなイメージはあちこちにあふれている。自動車メーカーだけでなく、行政がそのようなメッセージを発することも。仙台市内にて。電気自動車はエコ ――。そんなイメージはあちこちにあふれている。自動車メーカーだけでなく、行政がそのようなメッセージを発することも。仙台市内にて
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