電源が再生可能でなければ意味をなさない

 要するに現在の技術を前提にすれば、電気自動車にせよ燃料電池車にせよ、カーボンニュートラルの観点から本当に意味があるのは、おおもとの発電方法が再生可能なもの、つまり水力や風力や太陽光だけである場合に限られるのである。電気自動車や燃料電池車が、カーボンニュートラルの観点から本格的に役立つためには、電源構成もカーボンニュートラルなものでないといけないのである。

カナダ東部のとある田舎のB&B(宿泊施設)に設置された充電スタンド。カナダも水力発電の割合が約6割と高いカナダ東部のとある田舎のB&B(宿泊施設)に設置された充電スタンド。カナダも水力発電の割合が約6割と高い
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 いち消費者として自動車を買うときに、電気自動車のほうがカーボンニュートラルに貢献すると考えるのは一理あるが、社会のシステム全体や政策を考えるときには、その手前の電源まで考えておかないといけない。

 しかも交通のため以外にも、家庭用や産業用など様々な需要が電力にはある。2050年カーボンニュートラルに向けては、交通のため以外で必要な電力を再生可能エネルギーに転換するだけでも、かなりの投資と電源開発が必要だ。

 水力が豊富なノルウェーのような国ならともかくも、限られた国土で多くの人口をかかえる日本では、それを実現するだけでも難題である。それに加えて、電気自動車や燃料電池車の電源をまかなうとなると、ハードルはさらに上がる。

ノルウェーのとある都市の立体駐車場。テスラ社の充電スタンドが多数並んでいる。電気自動車の普及率でノルウェーはトップだが、ほぼ100%の電力需要をまかなえる豊富な水力発電が背景にあるノルウェーのとある都市の立体駐車場。テスラ社の充電スタンドが多数並んでいる。電気自動車の普及率でノルウェーはトップだが、ほぼ100%の電力需要をまかなえる豊富な水力発電が背景にある
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 カーボンニュートラルにまつわる問題以外にも、電気自動車や燃料電池車では解決できない課題が多数ある。

 以前の記事で、公共交通には大きくわけて4つの側面があると述べたことを思い出していただきたい。第一はビジネスとしての側面である事業性、第二は交通弱者自身の移動や家族の送迎の負担緩和などのセーフティーネットとなる社会的機能、第三は渋滞緩和や温室効果ガス削減、また原油価格変動のような国際情勢の影響など、自動車の諸問題の緩和機能、そして第四は鉄軌道が都市・地域構造の骨格を規定する役割である。

公共交通のポテンシャルを見極める4つの側面(シリーズ記事内容よりJBpress編集部作成)公共交通のポテンシャルを見極める4つの側面(シリーズ記事内容よりJBpress編集部作成)
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 これらの役割を踏まえつつ考えると、温室効果ガスや原油価格を除く自動車の諸問題は、ガソリン車だろうが電気自動車だろうが燃料電池車であろうが、実は共通であることがわかる。

 雄大な大自然の中を車が1台ゆったりと走る自動車メーカーのコマーシャルを見ているとつい忘れてしまいそうだが、ガソリン車だろうが電気自動車だろうが燃料電池車だろうが、道路の容量を超える数のクルマが集まれば渋滞する。交通事故だって、電気自動車や燃料電池車にしたからそれで減るわけではない。