(写真:somkanae sawatdinak/Shutterstock.com)
(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)
金(ゴールド)市場で大異変が生じている。
金の時価総額が1月29日から30日にかけて、わずか1日で約4.3兆ドル(約670兆円)も減ってしまった。人間が採掘してきた金の総量は昨年末時点で約22万トン。その価値が29日時点で40兆ドル弱だったが、1日でその1割以上が吹き飛んでしまったのだから驚くしかない。
金は埋蔵量が限られることから、価値が保存しやすく、戦争などの危機時の「安全資産」と位置づけられてきた。
速過ぎた金価格の上昇
昨今の金ブームの背景には、ロシアのウクライナ侵攻以来、各国の中央銀行による積極的な金購入がある。ロシアが保有する米国債やユーロ圏国債を米欧が凍結したため、中央銀行の間で「ドルやユーロ資産は政治的に封鎖され得る」との危惧が生じ、人為的なリスクと縁がない金を選好する動きが強まった。
トランプ米大統領の再登場もこの動きに拍車をかけた。
トランプ氏の傍若無人な振る舞いのせいでドルの信認が揺らぎ、市場ではドル資産から金へのシフトが進んだ感がある。
ドイツ連邦金融監督庁が1月28日「(現在4年ぶりの安値付近にあるドルについて)世界の基軸通貨として果たす役割を市場が疑問視するリスクがある」と異例のコメントを出していたほどだった。
金の価格は昨年、50回あまり最高値を更新し、年末には1トロイオンス(ロンドン現物価格)=4300ドルを超えた。年間の上昇率は64%だった。今年に入ると上昇速度はさらに加速し、29日に1トロイオンス=約5595ドルにまで達していたが、「『上げ』があまりにも速すぎる」との警戒感も広がっていた。
投資家が利益確定のタイミングを待っていた矢先に格好の「売り」材料が出た。
トランプ氏が30日、ケビン・ウォーシュ氏(55歳)を米連邦準備理事会(FRB)議長に指名したため、「金融が引き締められる」との憶測から、極端なドル高、金安となった。金の価格はドル建てであるため、ドルが上昇すると他の通貨保有者にとって割高となり、「売り」を誘うとの連想からだ。