オーストリア第3の都市・リンツを走る路面電車。人口約21万人の都市だが、日中は2~3分おきに電車がやってくる(写真:筆者撮影) オーストリア第3の都市・リンツを走る路面電車。人口約21万人の都市だが、日中は2~3分おきに電車がやってくる(写真:筆者提供、以下同)
拡大画像表示

 赤字ローカル線に未来はないのか――? 人口減・東京一極集中がとどまらぬ中、全国の地方でローカル線の廃線危機が叫ばれている。経済合理性の名のもとに「廃線やむなし」の決断が下されるケースが、今後相次ぐこともありそうだ。一方で世界では、そもそもローカル線は「儲かるわけない」が“常識”なのだという。儲からないローカル線は、いったいどのように運行されているのか。赤字でも「廃止論」が巻き起こらないのはなぜか。路面電車やバスが充実したオーストリアの首都・ウィーンを拠点に研究を続ける柴山多佳児氏が、公共交通の“世界基準”をシリーズで解説する。(JBpress) 

(柴山多佳児:ウィーン工科大学交通研究所 上席研究員)  

5分歩けば駅がある 

 筆者は交通計画、そのなかでも特に公共交通計画・政策を専門として、ヨーロッパ中部に位置するオーストリアの首都ウィーンの工科大学に勤務している。 

 ウィーン工科大学は1815年創立の古い工科大学で、ウィーン工科大学と日本とのかかわりも古い。特に1980年代初頭に東京大学と学術交流協定を結んだことをきっかけに、日本の様々な大学との間で研究者や学生が往来している。 

 日本からの留学生や来訪者の多くが一様に驚くのがウィーンの充実した公共交通機関である。 

 ウィーンは人口約200万人の大都市で、地下鉄5路線と路面電車26系統があり、それを補うようにバス網が発達している。市内はどこも5分程度歩けば必ずどこかの駅か停留所にたどり着く。改札はなく、時々車内や駅の出口で抜き打ちの検札がある。 

ウィーンの路面電車(写真:筆者撮影) ウィーンの路面電車「ウルフ」
拡大画像表示
ウィーンの路線バス(写真:筆者撮影) ウィーンの路線バス
拡大画像表示

 路面電車は1990年代半ばから導入された超低床の「ウルフ」が主力で、歩道との段差はほとんどない。高床の旧型車もまだ少しばかり残るが、第二世代の超低床車「フレキシティ」が続々と投入されており置き換えが進む。 

柴山 多佳児(しばやま・たける)
ウィーン工科大学交通研究所上席研究員。専門は交通工学・交通計画で、特に公共交通の政策・計画を専門とする。東京大学からウィーン工科大学へ留学し、その後オーストリア政府国費奨学生を経て2011年よりウィーン工科大学交通研究所研究員。2021年より現職。(一財)運輸総合研究所客員研究員(2022年~現在)、芝浦工業大学客員准教授(2023年~現在)、慶應義塾大学招聘准教授(2023~2024年)などを務めるほか、一般財団法人地域公共交通総合研究所のアドバイザリーボードメンバーを務める。