「黒字を出せるわけがない」が “世界基準” 

 日本には三大都市圏に代表される世界でも屈指の規模の巨大都市圏がいくつもある。東京に、横浜や千葉やさいたまなどを含めた人々が日常移動する都市圏域全体の人口を足し合わせると、東京都市圏には約3600万人が住まう。 

 都市圏域の定義にもよるが、同様に経済開発協力機構(OECD)の定義に従えば、大阪を中心とする近畿圏では約1700万人、名古屋を中心とする中京圏で約850万人である。 

 こうした人口稠密な巨大都市という特殊な条件下では、予定された時刻表通りに朝早くから夜遅くまできっちり走る公共交通も黒字が出せることが多い。巨大な人口という、いわば数のなせる業である。 

 ところが、世界的に見ればこのように公共交通で黒字を出せる都市はかなり例外的である。人口100万~200万人といった、日本の政令指定都市くらいか、それより小さなところとなると、予定された時刻表通りに朝早くから夜遅くまで高いサービス水準できっちり走る公共交通で黒字など出せるわけがないというのが、世界的に見れば「常識」である。 

 公共交通で黒字を出せる都市は、日本を含む東アジアと東南アジアを中心に、例外的に数えるほどしかない。その例外が三大都市圏だけみても国内に3つもあるから、つい「公共交通は基本的に黒字でなければいけない」という日本式の感覚を当たり前だと錯覚してしまうが、この状況はあくまで大都市圏の例外である。 

 一般の都市や地方で、公共交通で黒字を出すことはかなり難しいか、不可能である。 

路面電車が走るリンツの街並み。公共交通が市民の足になっている様子がうかがえる 路面電車が走るリンツの街並み。公共交通が市民の足になっている様子がうかがえる
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 公共交通に税金を投入するには、透明性が求められる。欧州にはそれを実現するための公共サービス義務(英語のPublic Service Obligationの頭文字をとってPSO)という考え方と制度がある。 

 PSOとは、大雑把に言えば、お客さんがいようがいまいが、定められた時刻表通りに公共サービスとして公共交通を走らせる義務のことであり、その義務をしっかり満たしていれば、税金を投入する透明性がこれで十分に担保されているという考え方である。 

 一方でPSOでサービスを提供する鉄道会社やバス会社には補助金を受け取る権利があり、また定められた期間、独占的にサービスを提供する権利が与えられる。 

 このように公共交通を税金を投入して走らせる理屈を、PSOとして行政と公共交通事業者の間の「義務」と「権利」の関係として法律で整理したのが欧州流で、欧州連合(EU)加盟国であるオーストリアにも当然適用される。 

 また本稿では詳述しないが、契約を結ぶか条例を定めるなどの方法で、透明性の高い民主主義的な方法で義務と権利を明文化することが求められている。