大雨で鬼怒川が氾濫し、決壊した堤防=2015年9月、茨城県常総市(写真:共同通信社)

 2015年9月、関東・東北地方を記録的な豪雨が襲った。なかでも茨城県常総市では、鬼怒川左岸の堤防が決壊し、広範囲にわたる浸水被害が発生。全国的な注目を集めた。

 この鬼怒川水害を巡る高裁判決が2月26日に出た。常総市の氾濫地点2カ所のうち、若宮戸(わかみやど)については国土交通省(以後、国交省)の責任を認め、上三坂(かみみさか)の堤防決壊については賠償責任を認めなかった。若宮戸の賠償金が減額となった以外は、水戸地裁判決の通りだ。

 これに対して、3月11日、原告、被告ともに不服として、最高裁へ上告した。

東京高裁へ入廷する原告団(2024年2月26日、筆者撮影)

双方上告し最高裁へ、責任を認めない強気の国交省

 水害訴訟における原告勝訴は、一部であっても、画期的な判決だ。しかし、2月26日、高裁判決後の記者会見で、原告代表の片倉一美さんは「気持ちは敗訴だ」との心情を語った。

高裁判決後の会見。右から原告の鈴木憲夫さん、高橋敏明さん、片倉一美さん、只野靖弁護士(2024年2月26日、筆者撮影)

 地裁と高裁で、国の賠償責任が認められた高橋敏明さんも、「若宮戸の自然堤防は、国交省が河川区域に指定しなかったために掘削されてしまった。氾濫はそれが原因だ。国交省は堤防調査で、以前はそれが『自然堤防だ』と認めていたにもかかわらず、裁判では『あれは堤防の役割を果たしていない』と主張し、責任を認めなかった。裁判所が明らかにしたように、河川管理の瑕疵を認めるべきだ」と国交省に対する思いを述べた。

国が河川区域に指定して守るべき砂丘林(自然堤防)が、太陽光発電事業者により約200メートルにわたって削られ、無堤防状態だった若宮戸。写真奥が今も残る砂丘林。氾濫前は暫定堤防(写真中央)の左右にソーラーパネルが広がっていた(2015年10月31日、鬼怒川を右手に筆者撮影)

 国交省が裁判で主張したように、砂丘林を自然堤防だと認めないのであれば、国交省は長年にわたって無規制のまま200メートルの無堤地区の創出を許したことになる。また、仮に自然堤防だと国交省が認識していたなら、河川法に基づき河川区域に指定して砂丘林の掘削を規制すべきだったが、無策だった。国に勝ち目はない。

 原告の片倉さんは「若宮戸の現場を見れば、誰だって国の責任だと分かる。それでも国は『責任はない』と主張したのです」と、国交省の姿勢を嘆いた。

 国交省本省に最高裁への上告理由を聞くと、出先の関東地方整備局に聞けと言い、関東地方整備局は法務省の出先の東京法務局に聞けと、説明責任を押し付けあった。東京法務局訟務部の担当者名と電話番号まで教えてくれたが、電話してみると「4月に着任したばかりでわからない」と、絵に描いたようなたらい回しぶりだった。