「私が反対しようがしまいが、このダムはできない」と強調する伊奈紘さん(2024年8月11日、設楽ダム予定地を背景に筆者撮影)
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 地盤が悪すぎて、「このダムは絶対に完成できない」と地元住民に指摘されているダムが豊川上流にある。国土交通省中部地方整備局(以後、国交省)が進める設楽(したら)ダムだ。前回書いた豊川の霞堤地区から車で1時間。上流に向かうと、過疎化が進む人口約4000人の愛知県設楽町に辿り着く。

 完成できない理由について「まぁ、見ればわかります」と言って現場に案内してくれたのは、ダム予定地直下に暮らす伊奈紘さん(79歳)だ。愛知県立の小学校校長を6年、中学校校長を3年務め上げた元理科教師だ。

眼前に広がる異様な光景、建設専門官も「初めて」の地すべり対策

 案内された先には、鉄骨の上に作った工事用道路が、山に巻きつき、谷を渡り、ダムの天端(一番上)の高さまで続く、見たことのない風景が広がっていた。その向こうに、ダム完成後に使われる予定の付け替え道路の橋脚が聳え立ち、巨大なクレーンが首を伸ばしている。

「なんですかこれは?」と思わず声が出た、地山に荷重をかけない地すべり対策として作られた工事用道路(2024年8月11日筆者撮影)
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「なんですかこれは?」と思わず声に出すと、「いや、私も聞いたんだ。どこのダムだって工事用道路が必要なら山を削って作る。なんでそうしないのかと。そしたら怖くて作れない。崩れるから」と事業者が答えたと伊奈さんは言う。